20世紀は「映像の世紀」と誰かが言った。
この映画は、太平洋戦争末期アメリカ国民に最後の勇気を与えた
1枚の写真をめぐる実話に基づいた映画である。
実話というのも、この作品の原作を書いたジェイムス・ブラッドリーの父が
まさにその写真に写っている6人の勇者(本当はそうでもないのだが…)
の1人、ジョン・ブラッドリーなのである。
大まかな内容は公式ホームページに譲るとして、
まず私が驚いたのは当時のアメリカのお財布が相当厳しい状態だったことである。
しかしよく考えれば当然のことで、この時点(1945年2月)では
まだドイツとの決着はついておらず、太平洋とヨーロッパで継戦中であった。
日本ほどではないにしても、多くの働き手を戦地に送り出していたし、
日本との戦いもすでに4年を過ぎて国中にも厭戦ムードが流れ始めていた。
それに何よりも戦争とは史上最大の浪費行為である。
前線で位置出される弾丸、戦車、戦闘機、艦船…、どれもこれも言ってみればカネである。
国庫のお金がいくらあっても足りないというのが現代戦と言っていいだろう。
そこに突然現れたのが件の写真である。
この写真に政府は飛びつき、軍はこの写真に写った男たちを探し、
彼らを英雄として祀り上げ、彼らを利用して国民に国債を買わせて
それを戦費に充てようと考えた。
結果としてそれは成功し、戦費を得たアメリカは戦争に勝つわけであるが、
英雄に祀り上げられた3人(この映画の主人公)の人生は大きく歪められてしまう。
ひとりは経営者としての成功を得るが過去の戦争について口を閉ざし、
ひとりは間違えて英雄に祀り上げられたことに罪の意識を覚え、
そのことで結局は自らを押し潰してしまう。
そしてもうひとりは、英雄に祀り上げられてかりそめの成功を得るが、
戦後忘れ去られて結局は落ちぶれていってしまう。
このあたりの人生の悲哀が非常によく描けている。
そして、先にも少し触れたが、アメリカも日本の「大本営発表」ほどではないにしても、
少なからず情報操作を行っていたということである。
アメリカが原爆を使ったのにはいろいろと理由があるといわれているが、
その中には「本土決戦ではあまりにもアメリカ側の被害が甚大であるから」
という理由が少なからず含まれている。
そのシミュレーションのベースとなっているのがこの硫黄島の戦いであるといわれている。
日本側はもちろん玉砕であるわけだから2万2000人の守備兵のうち生存者は約1000人。
一方のアメリカ軍も死者こそ7000人弱であるが、
負傷者を2万人以上も出してしまう大損害を出してしまったのである。
もしもこの調子で、1億総玉砕で挑みかかってくる日本と
本土決戦を仕掛けてしまったら…。
ただでさえ厭戦ムードの漂う中でこれ以上の甚大な被害を出してしまったら、
政権運営など当然おぼつかない。
それゆえにアメリカもまたこういった盛大なプロパガンダを行って
なんとか国民を奮い立たせる必要があったのだ。
おそらく、この死傷者数は当時のアメリカ国民も知らなかったことだろう。
今年は大小さまざまな第二次世界大戦絡みの映画が上映されたが、
まさにそんな2006年を締めくくるにふさわしい集大成的な作品であるといえよう。
ぜひこの硫黄島2部作はセットで見てもらいたい。
そうすることで、戦争とは国家と国家の衝突であるということを
改めて実感させてくれるはずだから…。
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