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文明あるところに災害あり 天災と国防(昭和9年11月『経済往来』より)-②

文明が進めば進むほど、天然の暴威による災害が、その劇烈の度を増すという事実

~経済編~
①人類がまだ草昧(原始時代)の頃、
・頑丈な岩山の洞窟の中に住んでいれば、たいていの地震や暴風でも平気だし、
 破壊されるような造営物自体持ち合わせていない
②小屋を作るようになる時代(冷害と:縄文時代)
・テントや掘っ立て小屋の類ならば地震に対しては安全だし、
 風に飛ばされても復旧は甚だ容易
 →こういう時代には、人間は極端に自然に従順
③文明が進んだ時代(例:現代)
・人間の中に自然を征服しようとする野心が生じる。
・重力に逆らい、風圧水力に抗するいろいろな造営物を建築。
・すっかり自然の猛威を封じ込めたつもりになっていると、
 何かの拍子にオリを破った猛獣の大群のように自然が暴れだす
・災禍の原因は、天然に反抗する人間の細工にあると言っても不当ではない
・災害の運動エネルギーとなるべき位置エネルギーを蓄積させ、
 いやが上にも災害を大きくするように努力しているのは、他ならぬ文明人自体
※冒頭の言葉は有名な言葉であり、また肝に銘じておくべき言葉。
 このまま覚えておいてもよかろう。
 以下は、冒頭の言葉を端的に実証した例の一つ。
 造営物に金をかければかけるほど、それが被災した時のダメージが大きくなるのは、
 確かに当たり前と言えば当たり前なわけだが…。



~社会編~
国家あるいは国民と称するものの有機的結合が進化し、
その内部構造の文化が著しく発展してきたために、
その有機系のある一部の損害が、
系全体に対して甚だしく有害な影響を及ぼす可能性が多くなり、
時には一小部分の損害が全系統に致命的となりうる恐れがあるようになった
(例、というか寺田の想像)
先住アイヌ(のような種族)が日本の大部分住んでいた頃に、
関東大震災や室戸台風が起った場合…
・彼らの小屋は弱震も烈震も、毎秒20mの風も毎秒60mの風も効果にそう差はない。
 よって、彼らの受ける物質的損害は些細なものに違いない。
 それは、野生の鳥獣が地震や風に堪えるのと同様
・食物や衣服も住居も、めいめいが自身の労力によって獲得するものであるから、
 天災による損害は結局各個人めいめいの損害。
・いって、その回復もまためいめいの仕事であり、
 まためいめいの力で回復し得られないような損害は、はじめからありようがないはず
対して、文明が進むと…
・例えば村の貯水池や共同水車小屋が破壊されれば、
 多数の村民が同時にその損害の余響を受ける
・高等動物の神経や血管のように張り巡らされたインフラ網の、
 1ヶ所に故障が起これば、その影響はたちまち全体に波及する
・しかも、高等動物のそれは注意深く保護されているが、
 一国のそれは野天に吹きさらしで、一朝事あれば断絶してしまう。
・もちろん工学者が計算によってそれなりの安全設計を考案しているだろうが、
 例えば変化の激しい風圧を静力学的に考え、
 風速計の数値から導き出した平均風速だけを目安に勘定したりするような、
 アカデミックな方法で作ったものでは、
 弛張の激しい風の偽周期的衝撃には堪えられない
※いまさら原始的な生活に戻ることはできないが、
 現代文明のような相互依存が著しく進んだシステムでは、
 その一部に大災害が起これば今の日本のように、その影響が全体に及ぶというお話。
 ワシみたいに直接には被災していない人間でも、
 一時的に通信が滞ったり、東京にモノを送れなくなったり、
 観たい映画が観られなくなったりと様々な影響を受けるわけです。
 政府などは、そういうことにも留意していないといけないわけですねぇ。
※インフラが血管のように注意深く守られていないという話は、
 まさに福島第一原発のことを予見したようなお話。
 そして、おそらくそれに続く文節のような計算を行って原発を建てているのだろうが、
 アカデミック(この場合「純理論的な」という意味だろう)な方法で作っても、
 「想定外」の力が襲ってきたらかなわないのである。

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