« 文明あるところに災害あり 天災と国防(昭和9年11月『経済往来』より)-② | トップページ | 国を守るのが、愛国心で大和魂の発露なら… 天災と国防(昭和9年11月『経済往来』より)-④ »

陸軍、海軍、防災軍! 天災と国防(昭和9年11月『経済往来』より)-③

以上を踏まえて、文明と災害の関係を充分自覚して、
平生からそれをに対する防御策を講じる必要があるのに、
それがいっこうにできていない理由とは…
→そういう天災が、きわめて稀にしか起こらないため
→しかし、昔の人間は過去の経験を大切に保存し、蓄積してその教えに頼ること甚だ忠実
 ・過去の災害に耐えたような場所にのみ集落を保存
 ・時の試練に堪えたような建築様式のみを墨守
→そうした経験に従って造られたものは、関東大震災でも多くは助かっている
(例1)震災後横浜から鎌倉にかけて検分した時…
 ・丘陵のふもとを縫う古い村家は存外平気
 ・田んぼの中に発展した新開地の新式家屋は、めちゃくちゃに破壊されていた
(例2)室戸台風の被害の伝聞
 ・古い神社仏閣は存外あまりいたんでいない
 ・時の試練を経ない新様式の学校や工場は無残に倒壊
→文明の力を買いかぶって自然を侮りすぎた結果ではと、寺田は想像
→これは決して当局者だけに任せるべき問題ではなく、
 国民全体が日常めいめいが深く留意すべきこと
※ダーウィンの「自然淘汰説」ならぬ「社会淘汰説」といったところか。
 日本建築は地震や台風と数千年にわたって戦ってきているわけだから、
 にわか勉強の西洋建築では太刀打ちできない場合が存外多いのかもしれない。
 東京スカイツリーには、五重塔と同じ「心柱」が入っているようで、
 そういう意味で言えば、ハードウェア面における和魂洋才自体は、
 着実に進んでると言えますね。


小学校の倒壊がおびただしいことは、実に不可思議
・政党政治の宿弊に根を引いた不正な施工のせい(噂)
・吹き抜き廊下(片面が柱だけで壁が無いため?)のせい
・大概の学校は周囲が広い空き地に囲まれているため、
 風当たりが強くその上2階建てであるため
→いずれももっともらしい気もするが、
 ともかく今回のような烈風の可能性を知らなかった、もしくは忘れていたことが、
 全ての災厄の根本原因であることに疑いない
→工事に関係する技術者が我が国特有の気象に関する深い知識を欠き、
 通り一遍の西洋直伝の風圧計算のみを頼りにしたためでもあるのでは…?
→工学者の謙虚な反省を促すとともに、天然を相手にする工事では、
 西洋の工学のみに頼ることはできないと、寺田は考える
※小学校の耐震強度問題は現代においても数年前から問題になってますが、
 代替施設などの問題もあるのか、なかなか立て直しは進んでない様子。
 広大な土地と一通りの施設がある学校は、
 災害時避難施設となっているところも多いと思われるので、
 この機に耐震強度の見直しなども行った上で、
 安心して避難できる施設としての学校歳築を目指してもらいたいものであるが…。

室戸台風で損害の特に甚大な地域は、明治以降発展した新市街地なのではと、
寺田は推測
→明治以前、その新市街地があった辺りは、災害に弱い地域であるがゆえに、
 自然に人間の集落が希薄になって行った場所
→せっかく自然淘汰されたのに、浅薄な「教科書学問」が横行したために
 淘汰の事実が忘れられてしまった
→そうして付け焼刃の文明に陶酔した人間は、
 すっかり天然の支配に成功したと思い上がって、所かまわず薄弱な家を建て連ね、
 枕を高くして審判の日をうかうかと待っていたのでは?
戦争
・ぜひとも避けようと思えば人間の力で避けられなくもない
天災
・科学の力でもその襲来を止めるわけにはいかない
・いつ、いかなる程度の地震、暴風、津波、洪水が来るか、
 今のところ容易に予知することができない
→戦争よりも天災の方が恐るべき敵である!
→国家の安全を脅かす敵国に対する国防策は、熱心に研究されている
→一国の運命に影響する可能性の豊富な大天災に対する国防策は、
 政府のどこで研究し、いかなる施設を準備しているのか甚だ心もとない有様
→日本のような特殊な天然の敵を四面に控えた国は、
 陸海軍以外に科学的国防の常備軍を設け、
 日常の研究と訓練によって非常時に備えるのが、むしろ当然なのでは?
→こういった警告を我々科学者は、しばしば当局や国民に与えていたのに、
 当局は目前の政務に追われ、国民はその日の生活にせわしくて、
 そういった忠言に耳を貸す暇がなかったように見える
→誠に遺憾なことである
※前半は繰り返し「社会淘汰論」の話。
 しかし、いくら災害があっても海辺に住みたがるのは日米とも同じらしい
 (『ダイヤモンドオンライン』にそういう記事があった)。
【記事リンク】http://diamond.jp/articles/-/11556
 そういうところにコミュニティを構築してしまった上は、
 簡単には動きたがらない人も多いみたいだしねぇ
 (詳細は、『日本人の自然観』で詳述)。
※ここで寺田が述べている理念は、現代の自衛隊によってある意味達成されている。
 しかし、領土問題が深刻化する現状や、
 消防など地場の救助機能を支える機関とのさらなる連携が必要なケースが、
 確実に増えているわけで…。
 訓練機能や情報の共有化、さらに防衛力強化の観点からも、
 海保や消防との機能統合など防衛省の再編拡充を、
 防災の観点から考えてみる手もあるように思われるのだが…。

« 文明あるところに災害あり 天災と国防(昭和9年11月『経済往来』より)-② | トップページ | 国を守るのが、愛国心で大和魂の発露なら… 天災と国防(昭和9年11月『経済往来』より)-④ »

寺田寅彦で読む 『地震と日本人』」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

« 文明あるところに災害あり 天災と国防(昭和9年11月『経済往来』より)-② | トップページ | 国を守るのが、愛国心で大和魂の発露なら… 天災と国防(昭和9年11月『経済往来』より)-④ »

2023年6月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30  
無料ブログはココログ