今そこにある危機 天災と国防(昭和9年11月『経済往来』より)-①
4つ目は、寺田災難論の集大成ともいえる、「天災と国防」。
昭和9年という、『あの戦争』に向かって行くこの国で、
やんわりと「戦争してる場合じゃないんじゃないの?」と訴えるわけですが、
その訴えは現代人にも通じるのではないかと思うのですが…。
ちょっと長いので、今回は4分割でお送りいたします。
昭和9年、日本の「国際的非常時」
・満州国で溥儀が皇帝となる(3月)
・ヒトラー、ドイツ首相と総統を兼務(8月)
・日本、アメリカに対しワシントン海軍軍縮条約の単独破棄を通告(12月、今作発表後)
昭和9年、日本の天変地異の「非常時」
・兵庫県但馬地方の大雪(1月、16名死亡)
・東日本で暴風雨(3月、50名死亡)
・函館大火(3月、2166名死亡)
・東北地方、冷害と不漁で飢饉発生(5月)
・北陸地方で大水害(7月、手取川下流域だけで100名以上死亡)
・室戸台風(9月、2702名死亡)
国際的非常時=まだ無形で実証のないもの
天変地異の非常時=最も具象的な眼前の事実
→こういう時、人は何かしら神秘的な因果作用を想像
→祈祷や厄払いといった他力にすがろうとする
→しかし、統計学的に言って、こういった災禍が重畳したり、
または平穏無事な年があったりするのは、全くの偶然
→悪い年回りが必ず来るのが自然の鉄則であると覚悟して、
良い年回りのうちに充分に準備しておくべきというのは、明白すぎるほど明白
→しかし、これほど万人がきれいに忘れがちなのも稀
→一般人は、「そうやって忘れているから日々楽しく生きられる」
と言っていてもいいが、
せめて一国の為政の枢機に参与する人々ぐらいは、
この健忘症に対する診療を常々怠らないようにしてもらいたい
※軍部支配が進む当時の日本において、
言葉を選んでやんわりと「戦争してるな歳じゃないですよ」という提言。
例えば室戸台風などは、現代でも語り草になるような激甚災害の一つ。
もっとも、軍部はこういうのも宣伝に利用して、
「こういう災害の多い日本には、満州のような安定した土地が必要なのだ」
とか言いそうだけどねぇ…。
※「こういう悪い巡り合わせ」という意味では、
今年もすでに「悪い年回り」に該当しうると思われる
(今回の地震以外にも、山陰地方の大雪や、
今回の地震にも関係あると言われている新燃岳の噴火)。
寺田は、こういう年のために良い年回りのうちに
怠りなく準備すべきだと言っているわけだが、
例えば阪神大震災から16年、政府は何をやっていたんでしょうねぇ…。
もっとも、政権選択をしているのは、ほかならぬ我々なわけですが…。
日本は、その地理的な位置が極めて特殊
→国際的にも特殊な関係が生じるため、
いろいろな仮想敵国に対する特殊な防御が必要
→気象学的、地球物理学的にも極めて特殊な環境の支配を受けるため、
絶えず特殊な天変地異に脅かされているという事実を、
一日も忘れてはならないはず
→地震、津波、台風が、このように頻繁に、
かつ激甚な被害をもたらす国は世界的にも稀
→そのことは、日本人の国民性に優れた諸相を育んだことも否定できない
※日本の、日本人の特殊性と国民性を、災害と結び付けて論考。
詳細は次回の②で語られているが、
奇しくも今回の地震によって世界も改めて日本の特殊性を
思い知ったのではなかろうか。
そういうことを丹念に発信していくのも、政府の務めだと私は思うのだが…。
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