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オカルトだってやっちゃうよ。 怪異考(昭和2年11月 『思想』より)-①

第2期は、取り上げる作品を時系列順で紹介。
1作目は、現存する『思想』(文芸春秋社刊)という雑誌に掲載された、
『怪異考』という作品。
既に理化学研究所研究員や東京帝国大学地震研究所所員などの要職を勤めながら、
一方ではこういった雑誌でオカルトの話を書くという、
お茶目というか探究心旺盛というか…。
現代に生きておられたら、テレビが放っておかないでしょうな、きっと。

物理学の学徒としての自分
=日常身辺に起こる自然現象に不思議を感ずることは多い
→古来のいわゆる「怪異」なるものの存在を信ずることはできない
→怪異を目撃した、という人事的現象としての事実は否定しない
→我々(=科学者)の役目は、それらの怪異現象の記録を、
 現代科学上の語彙を借りて翻訳するだけのことでなければならない
=錯覚や誇張、さらに転訛(≒言葉のすり替え)のレンズによってはなはだしく
 ゆがめられた影像から、その本体を言い当てなければならない
→しかし、現象の実態が詳らかでない以上、できることと言えば、あるだけの材料から、
 科学的で合理的な一つの「可能性」を指摘することぐらい
=「もっともらしい仮説」ぐらいまではこぎつけられる
※現代でもオカルトに挑む科学者は少なくないが(O槻義彦とか)、
 寺田ほど権威のある(世間に認知しされていたかどうかは不明だが)ひとがやる例は、
 あまりないんではなかろうか。
 しかも、謙虚。

①「孕のジャン」
・『孕』=高知の海岸に並行する山脈が浦戸湾で中断されたその両側の突端の地
 (宇津野山、大畑山)とそれに挟まれた海峡とをひっくるめた地名

・伝説の内容(『土佐今昔物語』より)
「孕の海にジャンと唱うる稀有のものありけり。
 たれしの人もいまだその形を見たるものなく、
 その物は夜半にジャーンと鳴り響きて海上を過ぎ行くなりけり。
 漁業をして世を渡るどちに、夜半に小舟浮かべて、あるは釣りをたれ、
 あるいは網を打ちて幸多かるも、このも海上を行き過ぐればたちまちに魚騒ぎ走りて、
 時を移すともその夜はまた幸なかりけり。
 高知ほとりの方言に、ものの破談になりたる事を『ジャンになりたり』というも、
 この海上行き過ぐるものよりいでたることなん語り伝えたりとや」

・土佐郷土史研究家の寺石正路氏の意見
 A:「ジャン」の意味の転用に関する上記の説の誤謬を指摘
 B:諏訪湖の神渡り(御神渡り)の音響の例を引いて、
  『孕のジャン』は「何か微妙な地の振動に関したことではないか」と述べた

・寺田が幼少時に老人から聞いた話
 =『ジャン』の音響とともに「水面にさざ波が立つ」と聞いた

・寺田の仮説
 =音の原因は昆虫か鳥類の群れが飛び立つ音では?
 →『孕のジャン』は夜半に起こる現象だし、
  魚が釣れなくなることが確実であるとするならば、空中の音波のためとは考えにくい

・筑波山の北、柿岡の盆地(現在の茨城県石岡市柿岡)での出来事
=寺田は、当地では珍しくない「地鳴り」の現象を数回体験
→神来(インスピレーションの訳語))的に、「孕のジャンの正体はこれだ」と感じた
(理由)
 A:地鳴りの音は、考え方によっては『ジャーン』とも形容されうる種類の雑音であること
 B:当地の地盤の性質、地表の形状や被覆物の種類によっては、いっそう『ジャーン』と
  聞こえやすくなると思われたから
 C;一方から一方へ「過ぎ行く」音で、それが空中ともなく地中ともなく
  過ぎ去って行くのは、実際他に比較するものの無い奇妙な感じを
  起こさせるものだったから
 D:極めて短周期の振動があり、これが水中を通ればさざ波も起こるだろうし、
  魚類の感覚器にも何らかの作用を与えるに違いない
以上より、『孕のジャン』≒『地鳴り』とするならば、
地震学上のスペキュレーション(思惑)が働く
=『ジャン』の記録は100年前から存在する
 (当時の現象か過去の事として書いたかは不明だが)
→土佐における大地変の記録は、
 西暦684年天武天皇の時代の地震(日本書紀)からある
→その後、慶長9(1604)年、宝永4(1707)年、安政元(1854)年と、
 少なくとも3回の大地震が知られている
→これらに代表される近くの歪は、自身の無い時でも常にどこかに、何らかの形で存在
→適当な条件を備えた局部の地殻があれば、そこに対し小規模の地震、
 すなわち「地鳴り」の減少を誘起しても不思議はない
→この仮説をもって孕の地形をみると、明瞭な地殻の割れ目であると言える
→ただし、この断層は非常に古い地質時代に生成されたと考えられるので、
 そんな古傷が現在の歪に対して時々過敏になるかどうかは不明
→宝永~安政期に特殊な歪を生じたために『孕のジャン』が一時現れ、
 近年はその歪が調整されて変動が起こらなくなったのでは?
→漠然と慶長、宝永、安政の3地震の周期から考えて、
 今後問題10年ないし100年の間に起こると考えられる強震が実際起こるとすれば、
 その前後に何事かありはしないかという暗示を次の代の人々に残すだけのこと

※コレに関しては故郷でのエピソードだし、自分の研究分野である地震にも
 関わりのあることのようだから、けっこう断定的に書いている。
 今回の地震では四国の方にはそれほど影響はなかっただろうが、
 阪神大震災もあったことだし『孕のジャン』が目覚める可能性も
 皆無ではないかもしれない。
 と、物理学者でもないワシが言っても全然説得力無いんだけどね。

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