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映画 『塀の中のジュリアス・シーザー』(☆☆☆☆)

イタリアのある刑務所では演劇実習が行われ、
年に1度それを一般観客に向けて披露している。
日本では、刑務所といえば手工芸品がすぐ浮かぶが、
チームで1つのものを作り上げていくという意味でいえば、
社会復帰に向けたプログラムとしては面白そうである
(実際、エンドロールで今作の出演者が
出所後俳優になった者もいると出てくる)。
ただ、今作はそういう劇ができるまでが焦点ではなく、
劇の内容と演じる服役囚個々人の関わり方が焦点。
この年披露されることになったのは、
シェイクスピアの『ジュリアス・シーザー』なのである。
独裁者シーザーと、それを裏切り暗殺するブルータスらの物語である。
それを演じるのは、
マフィアの構成員や麻薬取引で逮捕された者など重罪者揃い。
彼らにとって、独裁(=不自由な状態)は
まさに今置かれている状況そのものであり、
裏切りや暗殺は刑務所にはいるそもそもの理由にも結びついてくる。
つまり、彼らにとってこの劇を演じるということは、
自分の暗部に触れるということに繋がるのである。
彼らは、刑務所の至るところで演技の練習を行う。
そして、その様子を見ている他の囚人たちも、
だんだんとその様子に引き込まれて行くのだ。
それは、必ずしも彼らの演技が上手だからではなく、
彼らにとっても心当たりのあることであり、
彼らもまた刑務所という自由を奪われた状況に置かれているからであろう。

そして、実際に披露となる。
彼らの、真に迫った演技は、観客を魅了し、
盛況のうちに終了し、皆日常へと戻って行くのだ。

内面への掘り下げが足りないのは、
彼らが現役の受刑者だから仕方ないだろう。
逆に言うと、演劇という形でうまくガス抜きしているとも言えるし、
更正のあり方としては興味深いものである。
そういう意味では、
日本ではまだまだ文化というか芸術というか、
エンターテインメントの価値が低いんだろうね。
よその国のこういった事情を知るというのは、
毎度のことながら実に興味深い。
そういう意味でも、一見の価値アリである。

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