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映画 『エンダーのゲーム』(☆☆☆☆)

このレビューには作品の結末に関するネタバレが含まれております。
その点に注意してお読みください。

世界には二つの軍事論がある。
東の横綱、孫武の『孫子』と、
西の横綱、クラウゼヴィッツの『戦争論』である。
成立年代や成立した環境により、
この二作は大きく性格を異にする部分がある。
前者は、戦争を極力回避し
(後者もその手段を否定しないが)、
あわよくば敵手すら無傷で手に入れようとする、
いわば吸収合併を最上とする。
対する後者は、決定的会戦により
(前者も手段としてそれを用いることを否定はしないだろうが)、
相手を殲滅し味方の純度を維持する考え方である。

今作では、敵は異星人であり侵略者である。
そこで大人たちは、クラウゼヴィッツよろしく
これを殲滅することを目的として作戦を立案し、
そのための人材を集め教育する。
その中にエンダー(エイサ・バターフィールド)がいた。
彼の特別な才能に目をつけたグラッフ大佐
(ハリソン・フォード)は、
彼を艦隊司令官に育成すべく試練を課す。
グラッフは、既存の兵士とは違う思考を持った
司令官を育てようとしているそうだが、
基本的な戦略は「殲滅」である。
エンダーも、その思考に対し従順に、
あるいは想定以上にその方向へ覚醒し、
地球に勝利をもたらすのだが、
この話はそこで終わりではない。
まず、彼はその雌雄を決する戦いに、
「シミュレーションである」と偽って参加させられる。
そして、図らずも味方の命そのものを犠牲にしながら、
異星人の惑星そのものを破壊してしまう。
勝利が確定した後、グラッフから真実を告げられると、
エンダーは「相手は対話を望んでいた。他にやりようがあった」
とグラッフをなじるのである。

対話のチャンネルがあるのでは、
というフラグは最後のシミュレーション(=実戦)
の前などにも提示されるのだが、
グラッフら大人たちの考え方は、
実にアメリカ的というか、
『戦争論』の決定的会戦論そのものである。
しかしエンダーは、
味方の損害を最小限に抑えようとする目的であろうが、
『孫子』的な外交のチャンネルを模索しているのである。
『孫子』が最上とする勝利とは「謀を討つ」こと。
すなわち、相手の意図そのものを挫くことである。
そのためには相手のことも良く理解する必要があるわけで、
エンダーは「敵のことを何も知らずに戦うのが怖い」
とか「知ってしまったら情が移る」といった、
敵に対する理解、ひいては相互理解を志向しているのである。
『孫子』の有名な一節に、
「敵を知り己を知れば百戦して危うからず」
というものがある。
つまり、エンダーの思考はその考え方にマッチしているわけである。
また、『スター・トレック』などにも見られる
異星人間との相互理解といった共通項があり、
普遍性を有した作品とも言える。

現代においては、世界中の軍隊で、
『孫子』も『戦争論』も研究されている。
おそらく、今作の原作者は少なくともいずれか
(あるいは両方とも)
を知らないで今作を書いたのではないだろうか。
あるいは、意図的に大人たちのそういう書物の存在を知らない
無能で聞く耳を持たない存在に書いたのかもしれない。

SFとは便利である。
今作のような絶対悪を簡単に作ることができる。
ただし、最終的にはそうでなくなるし、
そうであるがゆえに今作には救いもあるわけだが。
これを近未来の地球上に置き換えたら、
少々生臭いことになりかねないだろう。
そのぐらい、国際艦隊の大人たちの考え方は、
1985年ごろ(原作発表の時期)のアメリカのそれに近く、
異星人のありようも世界のどこかにモデルを求められそうな
(当たり障りのないところで言えば大日本帝国とか)
風に見えてしまう。
発表当時、アメリカで高い評価を受けるのも当然と思う一方で、
これを日本の作品と結びつけている日本人を、
ワシは恥ずかしくさえ思う。
これほど戦略的な思考を持つ戦争作品、
あるいはバトル系の作品をワシは見たことがないからである
(ただワシが知らんだけかもしれんが)。
今だに上から下まで戦略的思考に乏しい日本からは、
今作に比肩しうる創作は生まれないことだろう。
エリート教育にも、特に現代日本は熱心じゃないしね。

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