映画 『ファルージャ イラク戦争 日本人人質事件…そして』(☆☆☆)
10年前にあった、イラクでの日本人人質事件。
当時29歳だったワシは、
「自己責任」論云々よりも、
70年代の「超法規的措置」を引き合いに出して、
「日本は舐められている」的なことを考えていたように記憶しております。
その反動と、小泉とブッシュの蜜月関係もあって、
政府部内から「自己責任」論が浮上してきたのではないか、
と今作を観てワシはまず思い返したわけであります。
今作では、その「自己責任」論によって批判の矢面に立たされた
高遠奈穂子さんと今井紀明さんを中心に、
当時の当事者へのインタビューやイラクの現状を追って行く作品である。
高遠さんは、親がかなり気合の入った方で、
「死ぬとか言ってるより、早くイラクに行ってらっしゃい」
と言って平手を張られたそうで、
相変わらずぶれずにイラクを中心に活動していらっしゃる様子。
彼女の場合、当時から一匹狼的なところがあったようですし、
自分のことよりも親が非難されたことの方にへこんでいたようなので、
立ち直りも早かったんじゃないかと思われます。
一方、当時18歳だった今井さんの方は、
5年ぐらい対人恐怖症になって引きこもりになるほどへこんでいたそうです。
しかし、その体験がきっかけとなり、
現在は通信制高校生の支援などを行うNPOをやっているそうです。
一方、自衛隊のあり方に関しては、いまだに侃々諤々。
集団的自衛権云々では、与党内でももめているようですが、
そもそもこの問題は戦後を通じて先送りにし続けている問題。
憲法問題から始まり、
安保闘争、前述した「超法規的措置」、
もっと言えば今作で扱われたような邦人救助
(小泉は、誰に邦人救助を頼もうとしていたのか…)や、
イラクとの関係(だけではないが)で言えば独自外交の構築という観点からも、
自衛隊のあり方は論議されなければならないはずなのである。
しかし、警察予備隊設立以降、この話は一向に進展していない。
それは、アジアのパワーバランスの問題や、
対外関係、さらには米軍との兼ね合いや、
あの戦争への反省や9条問題と、
はっきりさせずに来たツケがいろいろと回ってきているせいもある。
今作の論調も、基本的には反戦である。
しかし、正直監督である伊藤めぐみさんのツッコミが甘いように思えた。
例えば高遠さんたちは、自衛隊が助けに来てしまったらどうするつもりだったのか
(法律上無理だろうが…)。
逆に、彼女たちのせいで自衛隊が撤退したら…
(国内の批判的論調は爆発しただろうなぁ)。
そういう点に触れていないのが残念ではある。
さらに言えば、当時の親たちの反応である。
『白ゆき姫殺人事件』でも似たような描写があったが、
マスコミに責め上げられて、親たちが謝るさまである。
彼らには信念がないのか、と…
(高遠さんの親はおそらくあの場で謝っていた人ではないと思うが…)。
まぁ、その辺は映画のよって描かれ方が一様ではないのだが
(確か『悪人』かなんかでは、マスコミに対して毅然と振る舞った親が出てた気が…)。
あそこで謝ってしまう親も親なのだが、
謝らせるまで追及するマスコミもマスコミである。
やはり、マスコミこそがあの戦争から反省ひとつせずに
焼け太りした輩であると言えるわけである。
阿倍総理大臣は盛んに「戦後レジームからの脱却」と叫んでいるが、
あの戦争についていまだ何一つ総括で来ていないこの国が、
「戦後」から脱却する日など、果たして訪れるのだろうか…。
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