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映画 『アクト・オブ・キリング』(☆☆☆)

スカルノ政権末期のインドネシア。
スカルノの支持基盤であるインドネシア共産党を、
当時険悪だった米英は快く思っていなかった。
一方、インドネシア国軍も、スカルノの元で息を吹き返し、
インドネシア共産党と権力争いをするほどとなっていた。
それをうまく取り持つことで政権を維持していたスカルノだったが、
スカルノの健康状態が悪くなり、政権運営がままならなくなったことから、
1965年9月30日、両勢力が決定的衝突を迎えてしまった。
これを「9月30日事件」と呼ぶ。
今作の主人公は、その事件の前後で残虐なアカ狩りを行っていた
「プレマン」と呼ばれる民兵やヤクザ的な存在である。
本来、今作の製作、監督であるジョシュア・オッペンハイマーは、
プレマン側ではなく彼らに虐げられた側からこの事件へアプローチしようとしたが、
当局からの妨害に遭い断念。
それならばと、事件から50年近く経っても英雄的に誇らしく生きている
「プレマン」たちに、
当時の行状の再現映画を一緒に撮ってみませんか、と持ちかけたことから、
今作は生まれるわけである。

国家的にはタブー視されている事件でありながら、
「プレマン」たちはむしろ自らの行なった虐殺行為を、
誇らしく語り、嬉々として再現映画を撮るのだが、
いざ再現映画の中で演じてみたり、
画面越しに客観的に自分たちの行状を見て、
自分たちがとんでもないことをしてしまったのではないのか、
という思いが首をもたげてくるという、
予想外の化学反応を見せているのが、今作のキモとなる部分だろう。
また、国家的にはタブー視されているため、
スタッフロールでは「アノニマス(匿名希望)」とクレジットされるところが少なくない。
それだけ、事件の核心に迫っている証拠とも言えるのだが
(当事者の記憶に基づく再現なのだから当然と言えば当然なのだが)、
当事者本人に跳ね返って来るほどの過激描写になったというのは、
良く言えば興味深い一方、
彼らもまた「悪の凡庸さ」に取り込まれ、
善悪の感覚が麻痺してしまったのではと考えることもできる。
今作の中で起こっていることは、非常に興味深い事象であり、
人間というものを考える上でも示唆に富んだものになっている。

ただ、話自体があちこちに飛ぶ上に、
「芸術的な」映像がところどころに挟まれるのが、
ワシとしてはどうにもいただけない。
また、少なくとも再現映画内では、
彼らは自分たちの行動をことさら正当化しており、
またその「芸術的」映像によって残虐な行動を糊塗しているようにも見える。
当局の人間も関与しているのだから、
正当化するのはある程度仕方ないのだが、
彼らのやったこと自体は決して褒められたものではないわけで、
その辺に対して製作側があえてかもしれないが中立を保っているのは、
賛否の分かれるところであろう。

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