映画 『チスル』(☆☆☆)
少し前に観た『南部軍』でも少し触れられ、
彼ら南部軍発足の遠因ともなった「済州島四・三事件」の実相を描く今作。
全島挙げて南朝鮮(=親米軍政)に反旗を翻したとされ、
長きに渡り済州島民はもちろん
大韓民国の黒歴史(タブー)とされてきた事件を
掘り起こしたという意味で、既に意義の大きい作品である。
ただし、異国の歴史事件であるため、きちんと押さえるために、
多少の予備知識が必要
(ワシは『南部軍』観てたから構図自体はいきなりでも理解できたが…)。
しかも、今作はそういう意味では不親切な作品で、
多少のテキストの後いきなり本編突入。
ざっくり説明すると、親米軍政は徹底的なレッドパージを課し、
それで島民が殺されたのをきっかけに、
全島挙げてのゼネストに突入。
対する軍政側は、右翼青年を組織化(軍隊に編入したわけではない)して、
済州島に送り込んで島民を弾圧(専門用語で「白色テロ」と言うらしい)。
作中では、日本で言うところの「斬捨御免」だったらしく、
島民全滅も辞さないほどの苛烈さで臨んだとされている。
しかし、そこはしょせんただの青年集団。
略奪行為は当たり前で(食料は現地調達とされていた可能性もあるが)、
挙げ句の果てには
島の女(彼らに言わせると「アカ」の女なのだが)を捕まえ、
隊員で輪姦すという非道も行っている。
それもこれも、彼ら自体「島民全員がアカ」だと教え込まれているからで
(彼ら自身右翼だっていうのもあるんだけど)、
彼らもこれほど悲惨な現場になるとは思っていなかったと、
作中では描いている。
一方の島民側も、当然全員がアカであるはずもなく、
銃を持った乱暴な軍団に追い立てられて
仕方なく逃げてるノンポリな人々が主人公。
着の身着のままで逃げてきたため、お気楽なヤツや、
親族や家畜を置いて逃げてきた者など様々。
しかし、洞窟生活が続くと食料もなくなるし、
置いてきたものが心配で村に下りたい人が出てきたりと、
統制が取れるはずもなく、
ひとり、またひとりと脱落者が出ていく。
まぁ、随分と乱暴な話なのではあるが、
おそらくこれが実際のところなのだろう。
軍政顧問官のアメリカ軍人までが、今だに口をつぐんでいるのも頷ける。
しかし、先ほども書いたように、今作は作りが全体的に不親切。
しかも、おそらく意図的にモノクロ画像にしているせいか、
全体的に暗く、また撮り方も独特で、
モノクロではわかりにくい個所も散見する。
ただ、日本もこのように向かい合わなければいけない歴史が
まだまだ多くあるはずなのに、
カネ(あるいは視聴率)にならないという理由から、
いくつもボツになってるのではと考えると、
見習わなければならない面がある映画だとは思う。
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