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映画 『坑道の記憶~炭坑絵師・山本作兵衛~』(☆☆☆)

世界記憶遺産にも選ばれた元鉱夫山本作兵衛氏の炭鉱関連の絵を中心に、
山本氏自身の生きざま、
さらには国内唯一の坑内掘り炭鉱釧路や
(今は一私企業というよりは市民有志による寄り合い所帯に近いことを、
初めて知った)、
釧路の太平洋炭鉱が研修事業で交流している
ベトナムの炭鉱についても取材しており、
短い上映時間のわりには内容のあるドキュメンタリーである。

山本氏の記憶に基づくディテールまで書き込まれた絵の数々
(ヘタウマとは違う味のある絵そのものもなかなか見ものではある)や、
彼が書き残した日記の数々から、
単に記憶力優れていただけでなく、非常なメモ魔の一面、
さらにはそれらの資料によって垣間見える
「一山一家」とも呼ばれた当時の炭鉱の生活や人情、
鉱夫という仕事の様々な移り変わりを見ることができる。
それは、現代から見れば相当厳しく、
また社会倫理的にどうかと思うこともあるわけだが、
それは当時の事情がそうさせたものなのであるから、
今の倫理観で見るのは間違っているわけで、
またそれに疑問を持った人々がいたからこそ
社会が現代のように変わってきたのである
(当時の女性鉱夫たちは、当時のことをそう悪く思っていないようではあるが…)。

山本氏含め、当時の鉱夫の多くは貧乏だった。
だからこそ、子や孫にはそういう生活をさせまいとして、
一生懸命働いて、高校に上げ、大学に上げたのだろう。
しかし、その結果肉体労働の担い手が減り、
今や型枠工などが不足しているという現実がある
(復興需要とオリンピック需要が重なったせいもあるが)。
これは一種の「合成の誤謬」
(個々のやっていることは合理的なのに社会全体では不合理になること)であり、
人材育成としての学校教育の一つの失敗例と見ることができる。
誰しも大学に入れる必要もないし、また入る必要もないのである。
もちろん、経済的理由などで、
行きたいのに行けないというのは問題ではあるが、
それはセーフティネット
(あしなが育英会の奨学金はセーフティネットとしては成立していない)を
きちんと整備すれば済むことであり、
また学校側も自分たちの評価のためだけに
生徒を高校に行かせ、大学に行かせているという側面のあるのではないだろうか。
そういう意味では、学校が社会人(もっと言えば「大人」)養成期間として
キチンと機能していないのではないだろうか。

彼の絵画や日記は、日本の近現代史を語る上で重要な史料であり、
また歴史の一側面である以上現代が抱える問題を解決するヒントも隠されている、
まさに第一級の史料群なのである。
山本作兵衛氏に、改めて敬意を表したい。

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