映画 『ホームレス理事長~退学球児再生計画~』(☆☆☆☆)
東海テレビが映画館向けに贈る珠玉のドキュメンタリーの最新版。
今回は、在京キー局のフジテレビが全国放映を見送ったほどの問題作。
もっとも、映画化すると言うことは、
全国放送出来なかったことの裏返しとも言えるわけで
(戸塚ヨットスクールの今を追った『平成ジレンマ』も中京ローカル止まりだったし)、
今作も監督による生徒(と呼ぶべきなのかわからんが)に対する暴力表現など
(この監督さんもなかなか大変な半生を送ってここに来たのだが…)、
全国放映するには腰が引ける描写が散見される
(特に、ヤミ金にカネを借りに行こうすとるシーン)。
しかし、今作の主人公である山田豪氏のやっていることは、
存外利にかなっている。
彼は、全国でドロップアウトした元高校球児を集め、
野球をやらせながら勉強も教えて、
高等学校卒業程度認定を取らせようとしているのだ。
野球を中心に据えているのは、
山田氏自身もともとは高校野球の監督をやっていたからであり、
出来ることから始めるという意味では、立派な社会貢献であると言えるだろう。
しかし、問題なのは金策が非常にうまくいっていないことである。
だからこそ、ヤミ金に手を出しかけたり、
撮影スタッフにまでカネの無心を願い出たり、
借りていたマンションのインフラが全て止められたり
(そういう調子だから、なおさら金が借りられなくなるのだろうが…)、
町工場や畜産農家にまで飛び込みで営業したりと、
確かにNPOの他のスタッフからも呆れられるのも無理はない無計画ぶりである。
しかし、例えば大口の寄付者が現れたら、
この団体はおそらくその人のものになってしまうだろう。
その時、このNPOが本来持っていた理念が保たれる保証はない。
また、社会全体が子供たちを育てて行くという考え方から言えば、
彼のやりようにはむしろ正義があるようにも思われる。
しかし、自分の無力を嘆き、スタッフにカネの無心をしたと思えば、
「自分の何がいけないんでしょうかねぇ」と真剣に問いかけるのである。
これほど真摯な教育者が、日本にいったいどれだけいるだろうか。
必死に立ち直ろうとする子供たちと
このように正面からぶつかり合っている大人がどれだけいるだろうか。
一時、阿倍晋三も「再チャレンジできる社会」を打ち出していた。
しかし、現実社会はどうだろうか。
更生に疑義を持ち、刑期を終えた元囚人に狭量な社会。
正社員から一度でも脱落したら、再度正社員になるのは難しい、
「家族主義」の企業たち。
そして、「高認」という制度があるにしても、
脱落者は容赦なく置き去りにする学校。
彼らを救い上げるシステムを持たないこの国の、いったい何が変わったと言うのか。
山田氏のところにカネが集まらないという現実。
確かに、彼の経営能力には問題があるかもしれない。
しかし、彼のことを賛助出来ないこの社会の現実。
そこから目をそむけてはいけないと思う。
それが、賛助を求められた企業の経営能力に問題があるのか、
それとも我々日本人が実は狭量なのかはわからないが…。
まだ、このNPO団体「ルーキーズ」が生きていると、
最後にテキストで紹介されて安心しました
(でなかったら、今作は日の目を見なかっただろうが…)。
こういう「愛すべきアホ」(監督さん談)が、
ひょっとするとこの国を変えて行くのかもしれないのだから…。
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