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映画 『ソロモンの偽証 後篇・裁判』(☆☆☆☆)

壮大なるネタ振りを経ての後篇。
☆の数は、基本的には全体としての評価としてのものです。
見ての通り、基本的にはいい作品で、一見の価値充分であります。
宮部みゆきの「手法としてのミステリー」が存分に発揮され、
本番の「学校内裁判」のシーンも、
従来の法廷モノに劣らない、緊張感ある仕上がりになっております。
最後に二転三転する展開も見もので、複数のトリックスターの存在が、
この話をいやが上にも盛り上げます。

しかし、まず柏木が単なる「かまってちゃん」だったことが、ミソのつき始め。
そりゃ担任だって、藤野涼子だって、大出だって、
他のみんなだって少なからず「めんどくさいヤツ」だと思うわ。
そういう意味では、柏木が登校拒否するまでの話を
まず掘り下げるべきだったのではないか、と思ったわけである。

また、大人になった藤野と、現校長との回想というのも、
実は今作を白けさせるポイントだったように思われる。
大人になった藤野(尾野真千子)が映るたびに、
当時のことやたら朗らかに話していることで、
予定調和的雰囲気がプンプンしてしまうのである。
ぶっちゃけ、現在のシーンは必要なかったというか、
あのシーンが妙な予断を与えて、かえって損してしまってる感がするのだが、どうか。

第3に、全編を通じて「涙の大安売り」な点である。
もう、とにかく藤野涼子がスッと涙を流すのである。
ああもカンタンに流されると、
コッチとしては映画を観に行ってるわけだから、
「芝居」臭がプンプンしてしまうわけで、
その部分がことさら薄っぺらく感じられてしまうのだ。
もし映画上の演出なのだとしたら、これは完全なる蛇足だし、
原作からこうなのだとしたら、撮る段階でもう少しうまくやるべきだったのでは、
と思うのである。

今作で注目するべきは、実は生徒達ではなく母親ではないかと思われる。
特に注目なのは、過保護バカ親の三宅樹里の母(永作博美)と、
いじめっ子である大出の母であろう。
特に大出の母は決して目立つ役回りではないが、
あんな息子でもしっかり抱き止めてる、そういう感じがにじみ出ていて、
すごく良いのである。

この裁判の意味については、
なんといっても大出が閉廷後に神原に差し出した左手だと思う。
あの絶妙な余韻は、本来の法廷モノでもなかなか出せるものではないだろう。

人と人がわかりあうことなど、究極的には不可能なのである。
だからこそ柏木は、神原に対してあれほど酷い言葉を吐けるし
(しかも、当人にあまりその自覚がない)、
神原も柏木の背中を押すような言葉を言ってしまうのだ。
「知った風な口を利くな」という言葉があるが、
人間はせいぜい「知った風な口」しか利けないのである。
その「知った風な口」のやりとりで、なんとか折り合っていくのが社会であり、
それができるようになるのが「大人になる」ということなのかもしれない。
それができない柏木は…、
社会的に「死ぬ」道しか選べなかったんだろうね、結局のところ…。
そういう意味では、今作において柏木の両親の存在感の無さが、
現代社会の闇の深さを表しているように思われる。
悪い言い方をすれば、「学校内裁判」という
奇異なイベントにフォーカスを合わせ過ぎて、
もっと見なければいけない部分がぼやけてしまっている作品と言えるかもしれない。

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