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映画 『小さき声のカノン-選択する人々』(☆☆☆☆)

タイトルから内容が想像できず、予告編を見て観ようと思った作品。
なんやかんやで、ちょいちょい震災モノ観とります。

今作でまず思ったのは、仏教界のたくましさである。
最たるものは某学会(日蓮系)であるが、
今作で取り上げている東本願寺などの浄土真宗、
駒沢大が含まれる曹洞宗など、
特に大学を抱える宗派は横の繋がりが強固で(もちろん先輩後輩の関係もあるだろうが)、
放射能汚染されていない野菜が各地からこの寺に援助物資として届けられている。
だからこそ、福島県内から避難することなくわりと安全な生活が送れているのだろう
(もちろん、幼稚園も運営してるお寺さん自体の努力もあるだろうが)。
まして、廃仏毀釈という断絶に近い時代を経てのことなのだから、
そのたくましさはなおさらのことと思う。
それに比べると、人工宗教ゆえか神道の脆弱さを思わずにいられない。
田舎に行けば、手つかずで打ち捨てられている神社が少なくないし、
理論面でも仏教に頼らざるを得なかった歴史を考えると、
やはり宗教ではなく信仰とか習俗に近いものなのだと、改めて感じさせられた。

次に、もともと「出稼ぎに行かなくてもいい、通年で働ける地域づくり」
のために作られた原発が、
その事故のために避難という形で家族分断の原因になってしまった、
という皮肉である。
避難してもストレスで体壊す、避難しなければ放射能で体壊すという、
「進むも地獄、退くも地獄」という状況を現出してしまったわけである。
今にして思うと、出稼ぎというのは労働力の効率的運用という意味では、
意味のある方法論だったのではないだろうか。
だから、50年前に原発作るか作らないかという時に、
もっと対案を出して活発に議論すべきだったのに
(例えば、出稼ぎに対応した地域のあり方(地域丸抱えで雇用する)や
法整備(家族ごと出稼ぎして、出稼ぎ先で受け入れる教育機関を作るとか))、
そういうことなしに補助金やら「空気」作りで、
原発建設の流れを無理やり作っていった歪みが、
いまこのような形でこの国を苦しめているのではないだろうか
(この手法は沖縄でも公然と行われてるし、今も官僚はこの手法を使う)。
ラストでNPOの人が「まともな国に戻って欲しい」と言っていたが、
じゃあまともな国とはなんなんだろうか。
ワシは、上記のような理由でこの国は昔もまともじゃない、と思うわけだが…。

最後に、チェルノブイリの頃から続く、
この国の草の根運動の力強さである。
もともと、この国はムラ社会なんだから、国家なんかに頼らず、
ムラやコミュニティの中でわりとなんとかしてきた歴史があるのである。
上記のこととも関係してくるのだが、
国なんかに頼らず、今はネットを使った資金集めのシステムだってあるわけだし、
それこそ仏教ネットワークの強固さを見れば、
ヘタすれば国をひっくり返すことだって不可能ではないようにさえ思えるのだ。
この国は、チェルノブイリという前例を全く生かせずに、
今の状況を無理やり民衆に吞ませようしてるわけだし、
この国が大して頼りにならないことは正直痛感してるように思われるのだ。
だからこそ、自分たちでなんとかする、という立場に立つべきだと思うし、
今作に出てくる人々はそうしてるように思われる。

昨日、浅間山の警戒レベルが引き上げられました。
あの震災(ワシは、その直前の新燃岳ぐらいからだと思ってるのだが)以降、
この国は再び活性期に入ったと言われている。
原発即時全廃炉は、人的にも、そして物理的にも不可能であるが、
この国にいつまでも原発を、放射性物質を置いておけないことは明らかであろう。
だからこそ、コントロールできるところではきっちりコントロールするべきだし、
福島第一などは可及的速やかに廃炉過程に入らなければいけないだろう。
「原発を稼働し続けなければ、人材はどんどん損なわれる」
という人はいるが、現状は世界のどこも経験していない状況である。
それこそ、人材を育成して速やかに最大投入すべき状況であろう。
しかし、その人材となるべきは、原発推進派だけではない。
反原発派だって、速やかに廃炉するためには、
放射性物質や原子炉のことをきちんと知らなければならないだろう。
そういう知識なしに「即時全廃炉」とか言っているのは、
正直ワシには信じられないのだ。
「敵を知り、己を知れば、百戦して危うからず」(孫子)。
日本には、この視座が欠けている、いや持っていない。
その現象は、少なくとも「あの戦争」以来続く、この国の宿痾と言えるだろう。

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