映画 『和食ドリーム』(☆☆☆)
どんな無茶ぶりにも「喜んで」応える、日本の「おもてなし」。
しかし、そのように相手の要求に無制限に応えていたのでは、
日本独自のものを否定された時どうするのか。
だからこそ、自信を持って日本独自のものを送り出せる「伝道師」が必要なのである。
今作は、そういう人物にスポットを当てつつ、
「和食」の素晴らしさを世に問うドキュメンタリーである。
とはいえ、世界中の本質は基本的に同じで
「自分のところにあるものが最高」なのである。
世界に旅立った和食の料理人たちは、
そういう中で冒頭に書いたように『どんな無茶ぶりにも「喜んで」お応え』して、
ようやく自分たちのスタイルを確立したのである。
基本的には、その辺のせめぎ合いなんだと思うんです。
確実に言えるのは、向こうで成功してる人は、
和食をキチンと「翻訳」できている人たちなんだと思います。
そうじゃない人が作ると、
「ダシの入ってないみそ汁」や「白飯で握った寿司」とかになるんです。
ただ、日本の側がそういう「翻訳されてない」和食を認めない、
みたいな動きをしてることもあまり正しくないというか、
ぶっちゃけムダな労力だと思います。
だったら、向こうで立ち上がってる「和食の専門学校」みたいなやつの方が、
よっぽど効果があるように思うし、
そういうのをこそしっかり助成する方が実があると思う。
一方で、「翻訳」する際には、相手の文化もよく理解する必要がある。
アニメの例だが、国内の報道では「ジャパニメーションは世界ではやっている」
みたいな論調だが、それは実はコンペティション会場の中だけの話で、
海外では相変わらず「アニメは子供が見るもの」という固定観念があるため、
『ドラえもん』など一部の子供向けアニメ以外は、
国内同様、いやそれ以上に「オタク」だけのコアな世界なのである。
和食で言えば、「旬」の概念や、
そもそも取れる取れないという物理的な問題まで、
克服しなければならない課題は少なくない。
そういう意味では、国内における冷凍技術の発達や、
商社(今作で言えば共同貿易会長金井紀年)の存在などが解決策になりうるだろう。
それ以上に深刻なのは、和食の根幹たる日本の食そのものの問題だろう。
世界的には、「すべての命に神が宿り、大切にしている」
と発信されているが、
過去を見れば漁業資源の乱獲(ニシンが一時期減った要因)があり、
また世界一食べ物を捨てる国として有名でもある。
「和食」の精神が、日本から確実に失われつつあるのだ。
今作ではそれについての言及がほとんどなされていないのがザンネンである。
日本は、実は「文化を高尚化して囲い込んだ結果活力を失わせる」
歴史を繰り返している。
歌舞伎、映画、文学、マンガ…。
和食は、世界から認められた高尚な文化。だから守らなければならない。
それは半分正しいが半分間違っている。
現実を見つめずに「純血主義」で保護するばかりでは、
活力に満ちた栄華ある文化には育っていかないだろう。
「(命を)いただきます」から
「ごちそうさま(食材を東奔西走して集めてくれてありがとう、という意味)」までが、
和食の文化であるということをキチンと教えなくてはならないのだ。
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