映画 『チャイルド44 森に消えた子供たち』(☆☆☆☆)
少々出来過ぎな内容ではあるが、いちおうフィクションなので許す。
「いちおう」というのは、フィクションとはいえ元になる事件が
当時のソ連で実際にあったからであり、
政府側の対応もまさに今作で描かれている通りだったから。
そういう意味で言えば、主人公のレオ(トム・ハーディ)は、
権力の側にいながら権力の闇を覗いてしまったがゆえに、
紆余曲折を経るわけであるが、
冒頭で妻を売ってしまったらそれこそお話にならないわけで
(その辺の話が最後までこの話のキーになっていくわけだが)、
単純なミステリー作品ではなく、夫婦愛をしっかり描いているという意味でも、
なかなか出来のいい作品と言えるだろう。
ただし、そういう要素が絡んでしまったがゆえに、
ある程度先の読める作品になってしまったことも確かで、
その辺は賛否の分かれるところだろう。
「楽園に殺人は存在しない」という言葉から始まる今作だが、
コレは一種の「安全神話」であり、
日本でも例えば震災前の原発などにそのまま当てはまる言葉と言えるだろう
(再稼動賛成派の頭の中には今でも「安全神話」が生きてるのだろうが)。
それこそ、あの震災前後からの列島の活発な地殻運動などを見るにつけ、
「この国に安全な場所など無い」という思いがいよいよ強くなる。
しかし、再稼動賛成派は「世界最高水準の安全を確保している」と言いつつ、
あの震災以降もその「世界最高の安全水準」以上のエネルギーを持つ
地震などが数例発生しているという事実を秘匿している。
一方の「即時全廃炉」派などの言い分を素直に信じれば、
1基あたり年に1万人、それを40年続けると言われている廃炉作業を、
50基あるすべての原子炉で即時行えと言っているわけである。
つまり、毎年廃炉作業だけで50万人もの雇用(=放射能汚染者)が必要であり、
しかも彼らでさえ燃料棒の捨て場を用意していないのである。
廃炉しようがするまいが、捨て場が必要なのである。
しかし、国からの求めにどこも手を上げないし、
だいいちこの国に安定した地層など、前述の通りまず無いと思っていいわけだから、
国内に捨てる場所など無いのである。
閑話休題。
今作は、国家のルールを逆用してミステリーを仕掛けている。
こういう手法は、日本では時代ものでよく用いられるが、
今作ほどのダイナミズムはさすがに持ち得ないわなぁ。
しかも実在した事件からヒントを得ているだけあって
(しかもロシアで発禁処分になるほどのリアリティ)、
描写の端々に生々しいものを感じさせる。
全体主義国家の恐ろしさを改めて思い知らせてくれる作品である。
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