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映画 『野火』(☆☆☆☆)

ワシも、今作の原作と出会ったのは高校の頃(しかも教科書)でした。
エゲツない描写が印象的でしたが、
アレが前線の真実だったことは、
水木しげるのマンガからもよく知られていることである。
冒頭の部隊と病院の行ったり来たりは、一見実に滑稽である。
しかし、前線は肺病なんて撒き散らされたら困るから当然病院に回すし、
病院はというと「名誉の負傷」者を治療(と言っていいか甚だ怪しいが)に大忙しで、
外見上問題の無い肺病患者を置いておく場所など無いのである。
そのうち、病院は機銃掃射で壊滅し、主人公の田村(塚本晋也)は、
食料を求めて前線を彷徨う羽目になるのである。

旧日本軍は、異常な軍隊である。
兵士に死ねと教育する。
平気で飢えさせた上に、精神論で解決しようとする。
ゆえに兵站をシャレにならないほど軽視する。
前線の状況を無視した作戦を立て、
成功しなかったら前線の責任にする。
もう、体質が完全にブラックである。
しかも、いまだにその体質が改まっていないのである。
「戦争やりたがってる」とか、「生き証人がもういなくなってしまう」とか、
そういうことではなく、
ワシはそういう視点から実に今日的というか、
なまじその「軍隊式」で高度成長期を駆け抜けてしまったがゆえに、
より一層「軍隊式」が定着してしまった現代企業社会を
痛烈に風刺しているとも言えるのである。
最近の話で言えば、東芝が粉飾決算に手を染めた理由に
「少子高齢化」を挙げていたことであろう。
では、その少子化が進行していた頃、東芝は家庭のよき夫である男性社員を、
よき妻とセックスさせるために家に帰していたんだろうか
(ずいぶんと直截に書いてしまったが…)。
つまり、少子化の片棒を自ら担いでおいて、
それがゆえに企業実績が下がったと彼らは言い立てているのである。

閑話休題。
今作の描写は実にグロい。
とはいえ、原作も充分グロいし、そこが本質ではないと思うのだ。
人肉食を扱った映画は過去にも観ているし、
生きるためには食わなければならない以上、
故あらば食ってしまうわけである。
田村が前線ですれ違う兵士はいろいろである。
しかし、その多くは人殺しなど経験していない人々なのである。
目の前で敵とはいえ人を殺し、味方が死に行く姿を見、
自らの死の恐怖と向き合いながら日々を過ごすのである。
精神を病む者もいるし、痛みに苦しむ者もいる。
また、前述の通り彼らは日々飢えているのである。
略奪や、仲間内での食料の奪い合いも常態化してるであろう。
そんな極限の状態に追い込んでいる軍のお偉方は、
東京でのうのうと暮らし、「まだ戦争は継続可能だ」と日々吠えているのである。
もちろん、そうやって俯瞰で見て前線のむごたらしさに思いを致すのも良いし、
もっとミクロな視点で、
生きるとはどういうことなのかということに思いを致すのも良いだろう。
アメリカでは、こういった前線での経験を持って大統領になる人もいる
(その上で「世界の警察」をやっていたわけではあるが…)。
「戦争をしないために」と言っている現代のお偉方は、
戦場の現実がわかっていて言ってるのだろうか…。

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