映画 『黄金のアデーレ 名画の帰還』(☆☆☆☆)
今年は、日本にとって「戦後70年」なのではなく、
世界の多くの国家にとって「戦後70年」なのである。
だから洋画では(『杉原千畝』もあるから邦画でもそうだが)、
ナチス関連の映画が少なくない
(延び延びになってた『ミケランジェロ・プロジェクト』も、
戦後70年に合わせて延ばしたと考えられなくもない)。
今作も芸術関連の話なので、その『ミケランジェロ・プロジェクト』とも
無関係ではない話なのではあるが、
今作で扱われているクリムトの『ウーマン・イン・ゴールド』
(原題はこの画題をそのまま用いている)は、ドイツ国内に持ち去られることなく
(退廃的な作風のため好まれなかったらしい。
確かに、贅沢に金箔を貼りまくったこの作品は、
取りようによっては悪趣味と言えなくもないが…)、
オーストリアの美術館に「譲渡」されたことになっていた
(だから、『ミケランジェロ・プロジェクト』でも
リストアップされていなかったのだろう)。
しかし、今作ではその「譲渡」の事実自体から洗い直し、
最終的に美術館から取り戻すまでの顛末を、
その絵画のモデルの姪(ヘレン・ミレン)と、
累代の付き合いがある一族に属する弁護士(ライアン・レイノルズ)を
中心に描いている。
姪やその一族(もちろんモデル本人も)はユダヤ人で、
ナチスドイツのオーストリア併合時に、家財一式を差し押さえられ
(その時点でモデルの女性は死んでおり、その遺言のみが遺されていた)、
姪とその夫は姪の両親を置いてようやくの思いでアメリカに逃げてきた、
という経緯がある。
姪は、それを取り戻そうとオーストリア政府に掛け合ったが、
当時「オーストリアの至宝」とまで言われていたこの絵画を、
政府が手放すはずもなく、また高額な訴訟費用もあって
結局は泣き寝入り…、とは行かなかった。
この係争でオーストリアに渡った弁護士は、自分のルーツに触れ、
現在の醜態に対し義憤にでも駆られたのか、
最初乗り気でなかったこの裁判に、結局は一番のめり込むことになってしまうのだ、
家族の苦労もいとわずに…。
そして彼は、アメリカにいながらにしてオーストリア政府を訴える離れ業を見つけ出し、
遂には訴訟の舞台にオーストリア政府を立たせるところまで持ち込むのだが…。
相手が国家ということもあり、まず異色の法廷ものという捉え方ができる今作。
その意味では、この訴訟を通じて成長する弁護士が主人公という一面を持つ。
当初はせいぜいカネ目当て(1億ドルは下らないという価値のある絵画)で、
「頼りない」だの「少年」だのと揶揄されながらも、
最高裁や調停の舞台で堂々とプレゼンするところまで来るわけだし、
家族の生活がかかってるからとはいえ、最後まで粘り強く戦いきったわけである
(彼の奥さんも、彼の背中を押すいい奥さんである)。
対する姪の方は、やや偏屈。
ユダヤ系ということもあり、
祖国オーストリアから受けた扱いを考えれば仕方ない面もあるが
(その辺の話は、『ヒトラー暗殺、13分の誤算』でも触れられているが)、
「絵を取り戻すためとは言え、オーストリアに行くぐらいなら死んだほうがマシ」
まで言っちゃうんだからねぇ…。
ワシなら「その程度の思いなら、どうぞ1人でご勝手に」とか言いかねないわぁ
(実際弁護士さんも、縁故で仕方なく頼まれた上に、
実績づくりとカネ目当てだったわけだからねぇ)。
ただ、彼女にもやはり両親を置いて逃げてきた負い目があったりするわけだし、
彼女なしにはこの話自体進まないわけで、
絵が描かれた経緯以外はわりと丁寧に描かれている作品。
弁護士さんの方を主役だと思って観ると、
異色の法廷ものとしてかなり評価できる作品。意外とアツい。
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