映画 『杉原千畝』(☆☆☆☆☆)
テレビドラマでも何度か取り上げられている人物であり、
「日本のシンドラー」(特に『シンドラーのリスト』以降)とも呼ばれるが、
特に後者の呼称は、いかに日本人が彼の存在を知らずに来たかという証拠であり、
今作冒頭でも「『センポ・スギハラ』という外交官は知らない」と、
外務省の人間がのたまうぐらいの存在なのである。
それもそのはずで、彼は戦後すぐ外務省を依願退職
(ということになってるだけで、退職勧告を出しているようなので、
良くも悪くも目立つ存在で、しかも彼の情報を握りつぶしたのだから、
外務省としても後ろめたかったのだろう)していて、
しかも外務省は彼を今風に言えば「黒歴史」扱いにしていたのである
(彼の名誉が回復されたのは、終戦から55年経った2000年のこと)。
そんな彼の、外交官としてのキャリアをほぼ全て網羅したという意味で、
ほぼ「完全版」と言って良い出来に仕上がっている対策であり快作。
惜しむらくは予告編なりTVCMであり、
いかに短い時間しか与えられてないとはいえ、
旧態以前の「単なるいい話」仕上げなのである。
今作で見るべき点は、参考資料に『諜報の天才 杉原千畝』(白石仁章著)が
挙がっているように、外交の一態様としての「諜報」を盛大にやっていた
「エージェントとしての杉原千畝」なのである。
既存の作品では全くと言っていいほど触れられていなかった
(そして予告編やTVCMでもほとんど触れていない)その部分に光を当て、
本来優秀な外交官であった杉原をして、
あのような(少なくとも当時の外交官としては)暴挙を起こすに至ったかを
描いているわけで、(少々あっさりめだが)そのあたりの葛藤を描いている、
という意味でもよくできた作品と言えるだろう。
コレを観てしまうと、『海難1890』がいかにも雑な作品に見えてしまう。
今作を観て勘違いして欲しくないのは、
日本軍はナチスドイツのような傍若無人な振る舞いはしてない、
というわけでは決して無い、ということである。
今作冒頭でも、関東軍の千畝お抱えのスパイに対する扱いなどほんの一例にすぎない。
日本公開をずいぶん渋っていた『アンブロークン』みたいな話が、
無かったと信じたいのだろうが、
日本では『顔のないヒトラーたち』(札幌では近日公開)のように、
自らの手で旧軍を裁いた経緯がないため、そういう論法がまだ通じてしまうのだ。
「戦後70年」の今年は、風化しつつある戦争の記憶を掘り返すことに汲々とするのみで、
やはり「総括」は出来なかった。
それどころか、あの時代を思わせるフレーズや法制が政府から出される有様である。
『母と暮らせば』で今更のように戦争の話をしだした山田洋次などのように、
今日まで「あの戦争」について黙して語らずに来た、
この国の年寄りたちの罪は、やはり重い。
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