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映画 『サンローラン』(☆☆☆)

去年の『イヴ・サンローラン』(以下『イヴ』)は、財団公認の作品ゆえに退屈なのかと思ったら、
今作もあまり変わらなかった。
今作では『イヴ』の後半部分(主に1965~1976)を取り上げており、
広告によれば「最も輝き、最も堕落した10年」を描いている。
だいたいのことは『イヴ』で観ているので驚くほどのことはないが、
経営上のパートナー(昔はそれ以上の関係だったわけだが)であるベルジュの
「拡大路線」により、年2回の締め切りを設定されてしまった。
つまり、6ヶ月ごとに新しいファッションのアイデアを
何十と捻り出さなければならなくなったわけで、
そのうち行き詰ってくるのもいたしかたない。
性癖だから男に走るのはまだしも、
表現者がクスリ(麻薬とかだけでなく睡眠剤とかも含む)に走ってしまったら、
ある意味終わりだと思うんだけどねぇ…(彼の場合公然の秘密だったようだが…)。
こういう寄り道が多いからこそ、
ベルジュは仕事漬けにしようと考えたのかもしれないが、
表現者がアウトプットするためにはインプットも必要なわけで
(サンローランの場合、インプットの意味が違うっぽいが…)、
マラケシュに行ったり、お忍びでホテルに逃げ込んだりするのも理解はできる。

それにしても、ファッションに理解の無いワシなどからしたら、
服というのは工業製品であり、
作中のファッションショーで見せるオートクチュールなどは、
良くも悪くも芸術品であり(しかも不自然なスタイルを持つ女性の、
眉毛を全部抜かせるなど相当な作為も加えられている)、
それを半年で何十点も発表しなければならないというのは、
やはり相当なプレッシャーだったように思われる。
経営上拡大路線やブランディングが必要なのも理解できるが、
結局のところサンローランの頭脳ひとつに頼っている
(というのはやや言いすぎであり、サンローランもそれは認めている)のだから、
もう少し大事にしてやっても良かったんじゃないだろうか…。

あと、サンローランの浮気相手に「アリ」だの「モハメド」だのという
名前が出てきて思ったのは、
イスラム系の移民が当時から既に入り込んでいたという事実である。
当時は「イヴ・サンローラン」のような高級ブランドが飛ぶように売れてたらしいから、
国民生活にも余裕があったためにそれほど問題視されなかったんだろうが、
ファッションも「ファスト・ファッション」化してる現状では、
社会に彼らのような移民を受け入れる余力が無くなってきているのだろう
(そして、それは世界全体に言えることかもしれない)。
作中でそれを話題にすることはないが、
当時の世相を映す作品としてはそれなりに興味深い作品ではある。

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