映画 『ストレイト・アウタ・コンプトン』(☆☆☆☆)
「ギャングスタ・ラップ」でアメリカ中に良くも悪くも大きなムーヴメント起こした
「N・W・A」(主張するニガーの略らしい)の結成から、
ヴォーカル(ラッパーと言うべきか)のイージーEの死去までの
栄光と挫折を描いた作品。
と同時に、彼らの詩の原点となったカリフォルニア州コンプトンの
1980年代~1990年代の世相を描き、
今に続く警官の横暴と黒人差別を浮き彫りにしている。
オバマ政権下で公開された、
数々の「黒人映画」の系譜に列せられるべき作品の一つとえるだろう。
対外的には、当初はロス市警、
そして全米デビュー後はFBIにさえ目をつけられるほど
挑発的なメッセージを発し続けてきたわけだが、
それは彼らの地元コンプトンの現実の裏映しであり、
また強圧的な警察の態度への強力な反発であり、
その抑圧が強いからこそメッセージも切実の度を増す、という顕著な例と言えるだろう。
一方対内的には世に出るきっかけを作った白人マネージャーと、
ビジネスのイロハがわかるイージーEの蜜月が、
ユニット内に不和を招き、作詞担当のアイスキューブ、
さらに作曲担当のドクタードレーが脱退してしまう。
そのことが、むしろこの「半グレ文化」の拡大を促進することにもなるわけだが、
当然イージーE陣営は窮地に立ってしまう。
さらに、彼自身の不摂生が原因か、エイズに侵されてしまう。
ビジネスは、需要の喚起が重要であると同時に、
今日本で盛んに叫ばれている「コンプライアンス(法令順守)」に代表される
社会との折り合いも重要である。
確かに、イージーEたちだけでは「N・W・A」が
全米に旋風を起こすことはおそらくなかったであろう
(作中でも彼らはそう言っている)。
しかし、白人マネージャーが商習慣を口実に
ユニットを私物化していたことには当然賛否があるし、
『アメリカン・ドリーマー』にも通じる、
「クリーンだが儲からない商売」と「ダーティーだが儲かる商売」の
狭間の問題でもある話である。
そういうことをメンバーの一人ひとりが考えているというところが、
やはり日本とはちょっと違うところだな、とも思うし、
若くしてそういうドロドロした話をこなして自分のレーベルを持つ
アイスキューブやドクタードレーは、
感覚的に経営というものがわかってるという意味で非常に興味深いわけでもある。
音楽の大きなムーヴメントを起こした内幕と言うだけでなく、
ショウビズ界の光と闇の一つを描き出した、佳作と言えるだろう。
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