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映画 『顔のないヒトラーたち』(☆☆☆☆)

『ハンナ・アーレント』と一対で観るべき、
ドイツが歴史と本気で対峙した事実が元になっている作品。
戦後13年を経たドイツでは、
ナチスの元党員が平然と公職に就いていた
(日本でも似たような事例が無くはないが…)。
それを知った若い検事が、世代間対立も恐れず、
アウシュビッツ強制収容所で残虐な行為に及んだ人々を捜し出し、
法廷に引きずり出そうとしたのである。
日本がそうであったように、ドイツも戦時中の残虐行為から目をそむけ、
それこそ元SS隊員が公職に平然と就き。民衆もそれを半ば良しとしていた。
アメリカも、ナチの研究データを利用しようと
(日本に対しても同様の対処をしていたわけだが…)、
そういう状況を放置、あるいはほじくり返さないように取り計らっていた。
今作の主人公である検事(父親がナチスであることから思い悩む)も、
裁判のきっかけをもたらしたジャーナリスト
(戦時中アウシュビッツで見張り兵をやっていた)も、
最初の証人となった男
(妻子をアウシュビッツで失いながら自分だけ生き残ったことに罪悪感を感じてる)も、
裁判に至るまで思い悩むわけだが、
だからと言ってコレを放置することを良しとしなかった。
この一点において、日独の戦後処理に
大きな差が出来る要因の一つになったように思われる。
ドイツは、言ってみれば自ら「詰め腹を切った」と言える。
世代の断絶を覚悟してでも、ナチスの闇を暴き出し、
自ら裁く道を選んだわけである。
日本では「東京裁判史観」を良しとしなかった一方で、
自らの手で自らの罪を断罪することをしてこなかったし、
ワシが常々言うように「年寄りどもが黙りこくってきた」せいで、
慰安婦問題などが出てきても確固たる反論もできなくなってしまったわけである。

また、戦後に果たしてきたアメリカの暗部も見え隠れする。
ドイツや日本が戦時中に行ってきた人体実験などのデータを、
彼らアメリカはそれに携わった者の罪に目をつむる代わりに、
それを独占してしまったのである。
しかも、ソ連や中国といった東側諸国と対峙するために、
彼ら戦前の軍部関係者の罪に目をつむる代わりに、
国家体制を拙速に安定化させたとも言える
(それが日独の復興を速めた側面は当然あるが…)。

もちろん、ドイツの話なのではあるが、
同じ敗戦国である日本の戦後のありようや、
その両者に携わったアメリカの暗部など、
戦後世界が置いてきたものを復習するという意味では
よくできた作品と言えるのではないだろうか。

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