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映画 『最愛の子』(☆☆☆☆)

「生みの親より育ての親」という言葉があるが、
人身売買(特に幼児の)における最大の闇を、
ある意味では象徴する言葉とも言えるし、
今作において中心に提起されている問題とも言える。
血の繋がった親子の縁を引きちぎり、
養親から取り戻すことで「育ての親」との縁も引きちぎってしまう。
最大の被害者は、まさにこの間で揺れ動く子ども本人なのであるが、
彼らがなまじ子どもであるがゆえに、しばしばその視点が置き去りにされてしまう。
今作でも、その点はおおむね同様で、
「生みの親」となかなかうまくいかず、
かといって「育ての親」とは法の壁に阻まれて会うことすら叶わない。
結局は親子間で解決しなければならない問題なのではあるが、
そこに子ども目線は存在せず、周囲の判断は全て大人目線で行われてしまう。
「人身売買」の罪深さは、
そういう根の深さや子ども人生に与える影響の大きさからも、
論じられなければならない問題であろう。

今作でもう一つ問題として取り上げられているのは、
先ごろ廃止が決定された「一人っ子政策」である。
主人公夫婦も所属していた「誘拐児家族を救う会(ゴメン、うろ憶え)」の
リーダー夫婦は、最終的に子どもを取り戻すことを諦め、
新しく子どもをつくることを決心し、実際奥さんは妊娠する。
しかし、誘拐された子どもの死亡証明書が無ければ、
この家族にとって「2人目の子ども」になってしまうため、
彼らの申請は受け入れられないのだという。
じゃあ国家は、もっと真面目に彼らが子どもを取り戻すことに協力すべきで
(中国としては、とにかく人口を増やしたくないのだろうが…)、
それを怠った上で法を振りかざすというのでは、いかにも無責任であろう。
そういう意味では、この政策が廃止されたことは、
彼ら家族にとっては「遅すぎた福音」となるかもしれないが…。

欲しいのに生まれない一方で、欲しくもないのに生まれる。
端から見ると、実に理不尽な話なのではあるが、
前者はともかく後者は「欲望に負けた」結果と言えるわけだから、
当人たちに本来は責任があるわけだが、
一方でそうやって無理やり育てさせた結果が「虐待死」だったりすることもあるわけで、
本来はもっと丁寧な「バースコントロール」が国家には求められるのかもしれない
(そもそも、国家がバースコントロールをすること自体が問題と言えなくもないが)。
就職と同じで、景気が良くなったらみんな欲しがり、
悪くなったらみんなで絞るというのは、
サスティナビリティ(継続可能性)という観点から言えば間違ってるわけである。
だからこそ、現在の企業社会で人材バランスが失われてうまく回らなかったり、
日本や中国のように人口バランスが歪んで
「超少子高齢化」が問題視されたりするのである。
日本は、この80年の間に、「産めよ増やせよ」の時代がややしばらく続いた後、
1970年代に人口抑制策を取り始める
(と言っても、「一人っ子政策」のような厳密なものではなく、
あくまでもキャンペーン的なものではあるが)。
そこに、バブル崩壊以降の「失われた20年」が重なり、子どもの人口は減る一方。
結果、手のひらを返したように「産めよ増やせよ」に逆戻りである
(もっとも、そんな短兵急に増えるわけもないんだが…)。

閑話休題。
日本では拉致問題以外にさほど大きな人身売買の問題などは起きていない
(拉致問題だって単純誘拐だから人身売買と無関係なのだが)。
しかし、家族の縁を断ち切るという意味では共通している問題と言える。
そういう意味では、日本も、少なくとも今作内で描かれる中国と同様、
問題解決に対して真面目でも熱心でもないと言える
(もちろん国交回復問題など外交問題を抱えているので同列には扱えないが)。
しかし、かつて「八紘一宇」を唱え、
「五族共和」の理想に燃えて満州国建国に助力した日本がそういう調子では、
言行不一致の誹りは免れないだろう。
親子の、家族の本質というものについて、改めて考えさせられる佳作である。

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