映画 『ディーパンの闘い』(☆☆☆☆)
こういう「なりすまし」があるから、日本は難民の受け入れに
消極的であると言われる。
しかし、日本だって「あの戦争」から独力でココまでのし上がったわけじゃあるまいし、
「国連重視」を謳っている以上もう少し考え直してもいいのでは、と思う。
一方で、先日もベルギーでテロがあったように、
怪しげな移民が今作のように「なりすまし」で
何食わぬ顔して入国してくる可能性だってあるわけで、
そういう意味では難民に対して厳しい目を向けざるを得ない状況も、理解はできる。
日本の場合、「人手不足」なわけだから、
少しは考えてもいいとは思うんだが…。
冒頭から話が脱線してしまったが、
再三書いているように、今作の主人公は難民に「なりすまし」た男ディーパンである。
難民キャンプで見つけた女と、その女が連れてきた娘と、
家族に「なりすまし」て、スリランカからフランスに移民として潜り込んだ。
無事難民認定され、団地の管理人という仕事にもありつき、
貧しいながらも新天地になんとか溶け込もうと奮闘していた。
しかし、彼らが赴任した団地の様子が、どうもおかしいのである。
団地の屋根には常に見張りらしき男が立っている。
黒塗りの車が日ごと乗りつけてくる。
銃やらバットやらを振りかざして、徒党を組んだ男たちがうろついている。
それでも、実害のないうちは、彼らから仕事をもらえたこともあり、
なんとか折り合って行くこともできた。
しかし、彼らはただの不良ではなく、麻薬も商うギャングだったのだ。
闘いの日々から逃げ出すようにフランスに来たはずなのに、
ギャング同士の抗争に巻き込まれるディーパンは、
思い切った行動に打って出るのだが…。
平和やら居場所なんていうものは、天から降ってくるものではなく、
勝ちとるものである、ということを如実に描く今作。
もちろん、移民の現実の一面を描き出す、実録的な側面もあるのだろうが、
ディーパンは機械も扱えるし器用でもあるので、
どんなところでもわりと食っていけそうなたくましさを持つ一面、
冒頭に描かれるように命のやり取りには本質的には向かない優しさがある。
そんな彼が、他人同士の寄り合い所帯とはいえ、
「ひとつ屋根の下」に住むことで情が湧いたのか、
妻子を守るため、ディーパンは闘いに身を投じて行くことになってしまうのである
(この論法を聞くと「防衛のための戦争」と言って「あの戦争」を始めた
80年ほど前の日本のことが想起させられるのだが…)。
ディーパンは、新参者でありながら不法なコミュニティに
新しいルールを持ち込もうとした。
だから、彼は闘いに巻き込まれることになってしまうのだが、
彼のやっていること自体は傍から見れば正しいことと言えるだろう。
しかし、「正しいこと」が「いいこと」とは限らないわけで、
そこに軋轢が生じるわけである。
そんな話は今作の中だけでなく今や日々報道されている。
そして、先にも書いたように他人同士が一つ屋根の下で暮らし続けることで、
家族のような絆を手に入れて行くという、一種の成長譚にもなっている。
もちろん、結婚という制度自体、他人同士が家族になる、というシステムなのだが、
結婚という制度は国家が戸籍を管理するために便利なシステムなのではあるが、
実は当事者間にとってそれほど大きなメリットがあるわけではない。
確かに税金が安くなるとかはるが、
それらメリットしてあげられるものの多くは国家や自治体に絡むものばかりで、
当然同性間などでは成立もしない。
良性の愛によって成立するならば、
フランスのように事実婚にしたり、同棲し続けるだけでも問題は無いはずなのである。
そういう考え方の人間が世界じゅうに増え始めたのか、
結婚しない若者が増え始めていることも事実である。
今作で描かれるディーパン一家は、
そもそも打算のみで結びついていたわけだが、
それぞれが気にかけたりすることによって本当の家族に近付いて行くのである。
家族もまた、「コミュニティ」なのである。
子どもができたから紙1枚で「家族」にくくったところで、
それがコミュニティになっていかなければ空中分解するのである。
タイムリーな題材を使って、普遍的でかつ今日的な命題を
取り上げたという意味で価値は高いが、
やや展開が唐突なのが観ていてつらいところだった。
« 「新・中央競馬予想戦記」 2016-03-21 | トップページ | 映画 『リリーのすべて』(☆☆☆☆) »
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- 2022「勝手に映画賞」など(2023.01.31)
- 【1か月遅れ】鑑賞映画レビュー 2022年12月分(2023.01.30)
- 【1か月遅れ】鑑賞映画レビュー 2022年11月分(2022.12.31)
- 【3週間遅れ】鑑賞映画レビュー 2022年10月分(2022.11.21)
- 【1か月遅れ】鑑賞映画レビュー 2022年9月分(2022.11.01)
コメント