映画 『アイヒマン・ショー/歴史を映した男たち』(☆☆☆☆)
『顔のないヒトラーたち』において、ドイツ人検事が
「我々が裁くべき中で最も影響力のあるひとり」である
元SS将校アドルフ・アイヒマンがイスラエルによって逮捕され
(その辺りの綱引きも『顔のないヒトラーたち』で少し触れられている)、
イスラエルで裁判を受けることになった。
イスラエルとしては、この模様を世界に広く報道し、
自分たちユダヤ人が「あの大戦」において
ナチスから受けた「ホロコースト」の実態を白日の下にさらそうと考えていた。
そこに、当時まだ新しいメディアだったテレビ界から、
アメリカのミルトン・フルックマンプロデューサー(マーティン・フリーマン)が、
高名なドキュメンタリー監督レオ・フルヴィッツ(アンソニー・ラパリア)を担ぎ出して、
TV放映権を勝ち取ろうと名乗りを上げたのである。
しかし、裁判中継は今でもナイーヴな話である。
まずはその問題を解決しなければならないのだが…。
と、それ以降も様々な困難にぶち当たりながらも、
8か月に及ぶアイヒマン裁判の顛末を描いたのが今作である。
今作で放送された映像を観て、ハンナ・アーレントは「悪の凡庸さ」を発見したわけで
(それ以降の顛末は『ハンナ・アーレント』に詳しい)、
この裁判中継は各方面に様々な影響を及ぼした、
「歴史を映した」という今作のサブタイトルが、
必ずしも過大ではないことを示している。
イスラエルとしては「国策」であり
(復讐というなら、『レヴェナント』なんかよりコッチの方が
よっぽどえげつないわけだが…)、
ミルトンにとっては「テレビマンとしての成功」であり、
レオにとっては「今までの仕事の集大成」であったのではないだろうか。
それぞれの思惑が交錯しつつも、
それを成し遂げた彼らに、まずは賛辞を送らねばならないだろう。
一方で、やはりアイヒマンの鉄面皮は、
レオが終始いぶかしがり、ハンナ・アーレントも注目していたように、
やはり恐ろしさというか、おぞましさを想起させる。
今作でアイヒマンを演じたバイドタス・マルティナイティスは、さぞかし苦労しただろう。
『ハンナ・アーレント』の時も、ワシはアイヒマンを「マシーン」と評したが、
それを浮き彫りにしたという意味で、
この一連の報道はやはり歴史的なものであったということだろう。
その内幕に迫った今作もまた、よくできた作品であると、ワシは思う。
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