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映画 『ヤクザと憲法』(☆☆☆☆☆)

時あたかも、再びやくざ同士の抗争が行われるようになった2016年。
今作は、主に2014年の話ではあるが、
現代のやくざと、それを取り巻くもろもろについて、
けっこう深く(もちろん、イマドキのシノギについてはさすがに触れられていないが)
取り上げている、「あの」東海テレビ制作のドキュメンタリー。

それにしても、「謝礼なし」「ヤクザ側の検閲なし」「原則モザイクなし」とは、
ずいぶんと撮影側に譲歩した取り決めである。
しかし、その理由は中盤以降明らかになる。
彼らは「暴対法」や「暴対条例」により相当追い込まれているのである。
保険は組めない、口座も開設できない、子供を幼稚園や保育園にも入れられない。
憲法14条が途中に出てくるが、彼らは「社会的身分」により、
明らかに差別を受けているのである。しかも、「合法的」に、である。
まぁ、ワシは以前から「警察は制服を着たヤクザ」と言っているわけだが、
今作で行われていることは、まさにそれを如実に示している。
撮影妨害ももちろんそうなのだが、
「元山口組顧問弁護士」であり『哀しきヒットマン』の原作者でもある
山之内弁護士との法廷闘争などは、かなりの強権発動であり、
他の裁判でも時折疑惑視される「証拠捏造」なども平気で行っている。

一方で、今でも約差を信用して警察を疑う、
市井の人々の様子も描かれる。
彼らの存在意義とは何であるか。それは、彼らが力を失った今、
いわゆる「半グレ」と呼ばれるヤカラの跋扈を許してしまったことからもわかるだろう。
以前、彼らの受け入れ先は、それこそ「やくざ」屋さんだったわけである。
それが無くなり、しかも「暴力装置」として機能できなくなったやくざよりも、
「半グレ」はそういう法律に縛られない分伸び伸びとやっているわけである。
コレは、ポスト冷戦時代の世界にも、ある意味通じるものがある。
冷戦が終わって何が起きたかと言えば、
それはもう「テロに次ぐテロ」の時代である。
しかも、ポスト冷戦期に「一強」となったアメリカも、
「世界の警察やめます」なんて宣言をしてしまったもんだから、
中東から西アジア一帯が湾岸戦争以降「火薬庫」どころか「火の海」である。
しかも、その火が「ホームグロウンテロ」という形で
先進諸国にも飛び火しているありさまである
(その最たるものが「9・11」なのだが)。

やはり、この国はすっかり「狭量」な国になってしまった。
確かに、今行われているやくざの抗争は市民社会を脅かす大問題ではある。
しかし、それと同じぐらいの脅威を政治の中に感じられている人々が、
果たしてどれぐらいいるだろうか。
現在の憲法に問題があるのはわかる。
しかし、その手順を無視して「戦争法案」とまで揶揄されるものを、
強引に通してしまった彼らに、「やくざ」と同等の脅威を、
我々は本当に感じているのだろうか。
今作は、まさにこの国の「闇」を見事に描いている。
そして、決してトクでないこの業界に、いまだに身を投じる若者が、
いるという事実(できれば、彼のことにはもっと踏み込んで欲しかったが、
そういうわけにもいかないか)も興味深い。必見である。

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