映画 『ボーダーライン』(☆☆☆☆)
最近、麻薬戦争絡みの映画がいろいろと予定されている
(今作以外では『エスコバル』とか『カルテルランド』とか)。
それぞれ視点が違うわけで、
観比べることで麻薬戦争の今が透けて見えてくるのでは、と思われる。
今作は、麻薬戦争を取り締まる側であるFBIなり、
国境をまたぐために組織された特殊部隊なりの視点で
麻薬戦争を捉えているわけだが、
国内のみで麻薬の取り締まりをやっているFBI捜査官(エミリー・ブラント)には、
特殊部隊が国外で行っている超法規的行為が理解できない
(何だったら不法行為にしか見えてないわけだが)。
しかも、特殊部隊に雇われているコロンビア人(ベニチオ・デル・トロ)が
相当なクセモノで、彼もまたこの作戦をある理由から利用していることが、
ラストで明らかになる。
今作の内容だけを見れば、ドナルド・トランプが言う
「アメリカ--メキシコ国境に壁を作れ」という理屈も、
理解できなくはない
(と同時に、それが実際にはそう意味がないということも理解できるのだが)。
しかし、需要があるから供給されるわけだし、
特殊部隊のリーダー(ジョシュ・ブローリン)はそれを理解しているから、
カルテルの撲滅ではなく、「秩序ある麻薬取引環境の構築」を目指している
(FBI捜査官の彼女には、それも当然理解できないわけだが…)。
麻薬関係者に対して当たりが強いのは、何も昨日今日始まった話ではなく、
戦前、フィリピンの薬物中毒者相手に9ミリ弾では止められなかったために、
マグナム弾を使用していたという話があるぐらいなのだ。
彼らには法の力など通用しない。
法を破るに値する利益を得られるし、
法を破っても欲しいぐらい脳が欲するのであろう。
まして、麻薬成分が科学的に解明された現代にあっては、
より危険なドラッグをデザインすることも可能になっているらしいし、
その進歩ぶりはある意味日進月歩である
(だから危険ドラッグの危険度が日々上がってるわけだが)。
ヘタに取り締まっても、より地下深くに潜るだけで、抜本的な解決にはならない。
いっそウルグアイの前大統領みたいに「一定程度認めて国家が管理」
するという手法もあながち暴論とは言えない
(それこそ特殊部隊のリーダーの考え方に合致するわけだが)。
不法には不法で対抗するしかないのか。
FBI捜査官の考え方は、果たして頭でっかちの理想論なのか。
そのせめぎ合いの最前線が描かれている佳作と言えるだろう。
作品自体はフィクションであろうが、
今作で描かれるエピソードのひとつひとつについての実例は、
おそらく枚挙にいとまがないぐらい起きていることであろう。
そして、そこに登場する人物には、
みな親がいて、配偶者がいて、子供がいたりするのである。
正義とか悪とかといった概念は、しょせん相対的な概念でしかない。
そのボーダーラインを引くのは、結局のところ自分自身なのである。
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