映画 『スポットライト 世紀のスクープ』(☆☆☆☆☆)
「放送局が政治的に公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合に、
政府が電波停止を命じる可能性がある」
と発言するような政府が相手だからこそ、
報道界は公正と中立を保持しなければならない。
その一つの実例が、まさに今作と言えるだろう。
相手は米国内はもとより、全世界に広がるカトリック教会そのもの。
一部とはいえ、教会に訪れる子どもたちに
性的虐待を行っていた神父が存在したわけだが、
問題は彼らの存在を教会そのものが隠ぺいしていたという事実である。
しかもそのシステムは巧妙で、
裁判沙汰にされる前に弁護士を通じて示談(ということにする)に持ち込む。
しかも和解の条件に「守秘義務」を課す。
虐待自体にしても、その相手は厳選し、極力漏えいしないようにさえしている。
告発は過去に何度もあったが、新聞読者の過半数がカトリックという事実が、
営利団体である新聞社の筆を重くする。
そこにくさびを打ち込んだのが、新任の編集局長。
彼がユダヤ人であることも関係しているのかもしれないが、
最新の神父への訴えの続報が無いことに疑問を抱き、
コレを特集欄「スポットライト」で徹底的に追跡するよう命じる。
「スポットライト」チームは、この大いなる闇に果敢に挑むわけだが…。
『クライマーズ・ハイ』の記者たちもなかなか気骨のある連中だったが、
扱っているのはあくまでも事故。
今作は事件で、しかもチームリーダー(マイケル・キートン)の母校や、
記者のすぐ近所で当時も行われている事件である。
そのうえ、レイプ事件なわけだから、被害者もなかなか名乗り出にくいし、
自分の心の傷に触れる話なので証言もなかなか取りにくい。
それを、非常に丹念に、一方で大胆に取材しウラ取りをして行く。
結果、ボストンはおろか全米、果ては全世界にこの問題は波及し、
今もバチカンを含めカトリック教会全体を揺るがし続けているのである。
まさに「世紀のスクープ」と言うにふさわしい内容である。
かと言って、決して実録風にしているわけでもなく、痛快でかつ鮮烈。
報道の正しい在り方を示す、まさに「一筋の光」と言えるだろう。
また、今作では地方紙ならではの、「地域密着」的にエピソードも登場する。
記者たちはみな地元民で、証言者の子供時代を共有する者もいる。
また、有識者や有志とのつながりも濃厚で、
それゆえに地元を良くするために最終的には協力していく。
しかし、こういう話はなかなか内側からは生まれてこない。
実際、チームリーダーが別の担当の時にも告発するチャンスがあった、
というエピソードも登場するからである。
しかし、そこでよそ者の編集局長が、
「過去はともかく、今ココに出来上がった記事がある」と言って、
「スポットライト」チームを褒め称える。
このように「異なる血」を入れる効果が、こういうところにあるのではないだろうか。
今作では、「内なる目」と「外からの目」の両方が必要であることも物語っている。
翻って日本である。
つい昨日も三菱自動車で燃費偽装があったことが明らかになったばかりである。
「隠ぺい体質が改まってないのでは?」と記者会見時に質問があったが、
元は100年以上続く大財閥である。
内側の論理だけでは、やはりそう簡単に体質は改まるまい。
今回の告発にしても、日産という外部からの告発であり、
今後「外部識者」のみによる委員会が設置されると発表している。
しかし、それだけでは今作のように内部からの激しい抵抗も予想される。
内部からも浄化に向けた確固たる動きが無いと、
組織が空中分解する恐れもあるだろう。
報道の在り方はもちろんのこと、組織の論理や倫理についても考えさせられる、
アカデミー作品賞にふさわしい傑作と言えるだろう。
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