鑑賞映画レビュー 2021年10月分(1/2)
各作品のレビューが長くなってしまった
(時間があるとついつい長く書いちゃうんだよねぇ)ので、
2分割します。
護られなかった者たちへ(☆☆☆☆)
ラストに関しては、けっこう見事に騙されたクチだが、
ミステリーというよりは、震災モノというか、生活保護モノ。
何もなくても資金面で難ありの地方自治体の中で、
震災復興にカネ回し気味の東北の自治体では、
そりゃ生活保護絞ってくるわなぁ
(何もなくても絞ってくる「北九州方式」もあるが…)。
しかも、貧困に関しては「認めたくない」とも思える
国の姿勢にも問題アリっぽいし、
受給のシステムそのものにも踏み込んでるので、
生活保護モノとしては結構踏み込んだ内容になっている。
不満な点は、結局解決の手段として殺人に頼ってしまったことと、
「ワルになり切れなかった」佐藤健かな。
芝居の幅を広げる、という意味では、
このあたりできちんとした悪役をやっておいてもよかったかな、
とも思うのだが…。
死霊館 悪魔のせいなら、無罪(☆☆☆)
ガッチガチのホラーなのに実話ベースという、
「死霊館」シリーズの最新作。
こういう話を、バカ真面目に裁判するのが、
ある意味アメリカの裁判所の興味深いところというか、
宗教がそれだけ根付いてる、ということなんだろうね。
内容はフツーのホラー。
素晴らしき、きのこの世界(☆☆)
きのこ(若干粘菌も含む)のドキュメンタリー。
日本では健康系バラエティーでも扱うような話に、
若干の科学的根拠を加えた程度の内容で、
結構民間療法寄り。
アメリカの作品なので、なじみのないものが多く、
ちょっと入り込みにくいのも良くない。
ほぼひたすら「きのこスゲー」って言ってるだけに近い。
東京クルド(☆☆☆)
生活保護同様に日本の暗部と言える「入管問題」。
しかも、今作の主人公はクルド人。
関東にコミュニティがあるぐらい、
日本には結構な数のクルド人が住んでいる。
しかし、日本で難民認定されるのは、
すべての難民申請者のうち1%にも満たない。
国連の難民条約を批准しているにもかかわらずである。
あまつさえ、入管に監禁して追い出しにすらかかってるありさまである
(入管職員が作中で「帰ればいいんだよ。ほかの国行ってよ」と言ってるぐらい)。
その中で、今作の主人公である2人のクルド人は、
それぞれの状況によった方法で生き抜こうとしているわけである。
「護られなかった者たちへ」と同様、
この国にカネがない、という意味では問題の根は同じともいえる。
前首相が「自助」を声高に叫ぶのも無理はない。
一方で、この国は既に移民無しには国が回らない状況になっている。
厚生労働省と外務省の間ですり合わせるべき話なのかもしれないが、
そういうところもアメリカなんかはうまくやってたりするところを考えると、
しょーもないところでバカ真面目な日本の悪いところが出てるのかも…。
由宇子の天秤(☆☆☆)
SNSのおかげもあって、わりと全方位的に「正しい人間」でないと
いけなくなってきてる、息苦しい現代社会。
イジメ自殺事件を追うフリージャーナリストの由宇子(瀧内公美)は、
副業として父親(光石研)の経営する学習塾の講師もやっている。
しかし、その父が塾生に手を出して、しかも妊娠させたというのである。
父の真実を暴くことは、自分の、
ひいては仕事仲間の立ち位置を危ぶませることにもなる中で、
由宇子は苦悩するわけだが…。
由宇子が仕事を持ち込むマスコミの側の態度もアレだし、
娘をある意味食い物してる、塾生の父の態度にも疑問を感じるが、
世の中「弱みの握り合い」みたいになってる状況なので、
周りに優しくしにくくなるのも仕方いのかな、とも思うわけですが、
ラストは最近多い「ちゃんと終わらせない」ヤツ。
まぁ、答えの出しにくい話ではあるんだが…。
コロナ禍でこの国の問題点がいろいろ暴かれたが、
本来暴く方であるマスコミの問題点もいろいろ暴かれたような気がするねぇ…。
PITY ある不幸な男(☆)
奥さんが不慮の事故で昏睡状態になってるところは
確かに「不幸な男」なんだろうが、
その状況に慣れてしまって、それが当たり前みたいになってる時点で
「ザンネンな男」になってしまってる。
いつしか、奥さんが元の状態に戻ることが「不幸」みたいになってるので、
ラストの「暴走」はそういう意味では
「楽園を取り戻すための戦い」になってる、
と言えば聞こえはいいが、元の状態を考えれば、
弁護士もやってていい暮らししてるのに、それで満たされない
やっぱりただの「ザンネンな男」の話。
ダメな奴のダメな日常を見せられるだけ、ともいえる作品。
プリズナーズ・オブ・ゴーストランド(☆☆)
園子温監督のハリウッド進出後初作品。
そこはかとなく「希望の国」以来の原発事故の話を盛り込んでくる一方、
アメリカ受けを明らかに狙った「勘違いジャパン」な世界観。
ノリ自体は嫌いじゃないんだけど、
もう少し頭空っぽにして楽しみたいところに、
前述の「原発事故」の話がやってきてしまうので、
妙に冷めてしまうのがもったいない。
ONODA 一万夜を越えて(☆☆☆☆)
「孫子 九地篇」に「覇王の軍」の条件の一つとして
「郷導(地元の案内人)を用いざる者は、地の利を得ること能わず」
という一文がある。
しかし、エリート養成機関の誉れ高い「陸軍中野学校」卒の
小野田寛郎(遠藤雄弥、津田寛治)は(二股分校卒だが)、
地元民の助けを得るどころか、
戦中戦後を問わず地元民と距離を置き、敵地のど真ん中で
時に略奪し、時に殺し合いをするようなありさまである。
戦地に赴任してきた当初の態度も、
エリートにありがちの「頭でっかちの外様士官」の典型的な態度で、
上司(イッセー尾形)からの教えもあって
「信用できるもの以外身の回りに置かず、最悪一人になっても戦いを続けよ」
を実践している。
しかし、前述の孫子の一文を読む限り、
覇王の軍は一種のテコのような働きをして、
自身が本来持つ力よりも大きな力を発揮できるようにすることが、
一つの条件のように思える。
それをハナから否定してるように見える陸軍中野学校の教えは、
むしろこの国を危ぶませたようにも思えるのだが…。
同様に戦後長く一人でゲリラ戦をやっていた横井正一は、
こういう特殊な教育を受けていなかったがゆえに
戦後の日本に順応できたのに対し、
「軍国主義の亡霊」と揶揄され、順応できなかった小野田は、
やはり受けてきた教育に問題があったように思えるのだが…。
今作は外国人監督による作品なので、後世に文句を言っても仕方ないが、
小野田をより深くフィーチャーするなら、
やはり横井と対比的にやるべきだったし、
小野田を発見した鈴木紀夫(仲野太賀)にフォーカスを当てるなら、
彼だけのはないsにした方が良かったように思うが、
チラシで「青年旅行者」と書いてるところを見ると、
やはり「軍国主義の亡霊」を取り上げたかったように思える。
アイダよ、何処へ?(☆☆☆)
ボスニア紛争の中で行われた大虐殺にフォーカスを当てた作品。
直轄軍を持たない国連の非力さが浮き彫りになっているが、
正直国連軍の通訳をやっているアイダ(ヤスナ・ジュリチッチ)の
態度が明らかに虫が良すぎ。
はっきり言って、彼女には国連軍以上に力が無い。
にもかかわらず「家族だけは他の避難民と別扱いに」というのは、
気持ちはわかるが正直成り立たないと思う。
やはり、この時点で「世界の警察」をやれるのが
アメリカだけになってしまってるのが問題なんだが、
もともと「欧州の火薬庫」だったわけだから、
国連としてはもっと注意して見ておかないと
いけない場所だったと思うんだが…。
「均衡した勢力による緊張状態」がもっとも
「かりそめの平和」に近い状態だったということを
失った今改めて思い知らせてくれる作品ともいえる。
ミッドナイト・トラベラー(☆☆☆)
3台のスマホで撮り継いだ「自撮りドキュメンタリー」。
今また緊張状態となったアフガニスタンから、
陸路5600kmのロードムービー。
「東京クルド」で日本は全然難民受け入れてない、と書いたが、
他の国だって厳しく審査はやってます。
ただ、審査の間の自由度がだいぶ違う、という話でもある。
今も入国審査を受けている今作の監督の家族には、
この施設で生活していくしかないわけだから、
彼らの行動範囲内で生計を立てることが可能になってるわけです。
日本は完全に隔離してないだけマシ、と言えなくもないですが、
生計を立てることは実質不可能なので、
こっそり働くか悪いことしないと生計が成り立たなくなるわけです。
難民を生まない世界が、もちろんあるべき世界だとは思いますが、
今は新型コロナもあって、どの国にも余裕が無いのかも…。
水俣ー患者さんとその世界ー完全版(☆☆☆)
水俣病を世界に知らしめた、と言われる1971年の作品。
集団訴訟に名を連ねた29世帯を中心に、
作中でも潜在患者の状況にも触れている。
原発排水もそうだが、日本は何となく「水に流す」的な
考え方がはびこってるように思える。
水俣では魚が主食であり主要産品だったことが、
この不幸の始まりともいえるわけですが、
時代性ゆえか、妙に明るい笑顔が、今となっては痛々しい。
メインストリーム(☆☆☆)
「ノーワン・スペシャル(ただに一般人)」と名乗りながら、
世の中に対して斜に構えて「ちょっと違う視点からものを言う」
リンク(アンドリュー・ガーフィールド)。
そんな彼の動画を撮ってyoutuberとして世に出るフランキー(マヤ・ホーク)。
巻き込まれた作家志望のジェイク(ナット・ウルフ)。
でも、カネとか名声とかが絡んでくると、
人間は変わって行くし、何といっても飽きられないように
刺激がどんどん強くなっていく。
そうやって知らず知らずのうちに道を踏み外してしまうのだが、
ぶら下がってる人間たちはそれを止められないし、
もともとリンクは人格的に問題があった。
それを隠して(聞かれなかったから言わなかっただけとも言えるが)
活動を続けて、最後には「こんなヤベー動画見てるお前らも大概だぞ」
と開き直る。まぁ、間違ってないんだけど…。
アメリカのこの手の映画、いちいち皮肉がきつい。
トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング(☆☆☆)
最近の英雄ものらしく「英雄の化けの皮をはがす」作品。
でも、もともとの人物を知らないので、
ワシとしては「化けの皮」も何もないわけだが…。
ただ、オーストラリアがもともと流刑地だったことは知ってるので、
主人公のネッド・ケリー(ジョージ・マッケイ)の出自にも
特段の驚きはない。
むしろ母親の少々露骨な
「子供をたくましく育てれうためには手段を選ばない」
ふるまいも、ネッドの成長に少なからず影響したことだろう。
支配層だけを狙って悪事を働くさまが英雄視されたんだろうが、
支配層を狙った方がコスパが高いのはある意味当然だし、
その反動の大きさもある程度想像できる。
それでも前のめりに倒れる(本人は最後まで逆転があると信じてたようだが)
道を選んだというところも、後世に語られる要素となるだろう。
でも、根底にはワルになれない小市民がワルに憧れる、
というわりとありがちな心理が彼を英雄視する理由なのかも。
そして、オチもわりとありがち。
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